研究課題/領域番号 |
23300198
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中澤 公孝 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90360677)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 歩行 / 脊髄運動ニューロン |
研究概要 |
本研究の最終的な目的はヒトの二足立位歩行制御に関与する脊髄神経機構の構造と機能を解明することにある。この目的に迫るために、本研究では二足立位歩行の制御系を、①姿勢維持のための筋トーヌス生成系(TONE系)と②下肢の歩行リズム発生系(CPG系)に分ける。そしてそれぞれの系の構造と機能に関する次の課題を解決することを目標とする。課題1:ヒトの歩行リズムと筋トーヌスを発生する脊髄神経機構を賦活し、その性質を調べるための実験系の確立、課題2:両系を発動するのに必要な上位中枢からの脊髄内下行路の同定、課題3:両系を発動あるいは活動を変調する感覚入力の解明。課題4:TONE系とCPG系を構成する脊髄神経回路のモデル化、であった。当該年度の研究目標は課題2から4について進めることであった。課題2に関しては、当初脊髄不全損傷者の脊髄横断MRI画像解析から残存下行路を同定することを計画したが、このような解析に適する脊髄損傷者の数が十分集まらず、数例の画像解析に止まり、特定下行路の同定には至らなかった。しかし、受動的なステッピングにおける健常者の歩行様筋活動に関するデータを収集解析することができ、さらに振動刺激の影響について検証する実験を開始することができた。課題3に関しては、脊髄反射系に対する下肢の同側性、対側性体性感覚入力の影響を精査し、Ia群入力の影響を同定することができた。さらに下肢の三関節周りの体性感覚入力が脊髄運動ニューロンに対し抑制性影響を有することを実験的に証明することができた。課題4に関しては、課題3の実験結果から、新たなモデル案を作成することができた。この点は最終年度にさらに検討予定である。以上、平成24年度の進捗状況を総括すると、当初の計画からの変更を余儀なくされた部分もあったが、当初の予定以上に進展した面もあり、ほぼ順調に進めることができたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のごとく平成24年度は、以下の目標と課題に取り組むことが当初の計画であった。 課題2:歩行リズムと筋トーヌス、それぞれを発動するのに必要な上位中枢からの脊髄内下行路の特定 課題3:それぞれの系に対して、荷重関連(load-related)と運動関連(kinematics-related)の体性感覚情報がどのように影響するかを評価する。 課題4:両方の系に結合する下行路、求心路を含めた脊髄神経機構の新たなモデルを作成する。 これらの内、課題2に関しては、脊髄のMRI画像解析を行うことが可能な脊髄損傷者が十分に集まらなかったことから、特定の下行路の同定に至らなかった。しかし、受動的なステッピングにおける健常者の歩行様筋活動に関するデータを収集解析することができ、さらに振動刺激の影響について検証する実験を開始することができた。それによって、歩行リズムと筋トーヌス、それぞれの発動系を構成する末梢の神経経路を推定するためのデータを得ることができた。この点は、課題3の解決に向けても大きな意味があった。特に運動関連体性感覚入力については、当初の予定以上の成果を得ることができた。具体的には歩行中の脊髄運動ニューロンに対する両下肢六関節からの入力の影響を明らかにすることができた。それによって、課題4のモデル作成に必要な重要な情報を得ることができた。これまで未知の神経経路の一端が明らかになったため、モデルへの組み込みが可能となった。以上、当初の計画は一部変更になったが、当初の予定を超える成果も一部で得ることができ、全体としてはほぼ予定通りの進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの進捗状況を加味し、平成25年度は、次の課題と目標に対して取り組む。 課題3:歩行リズム発生系と筋トーヌス発生系を発動あるいは活動を変調する感覚入力の特定。目標3:歩行リズム発生系と筋トーヌス発生系に対して、荷重関連(load-related)と運動関連(kinematics-related)の体性感覚情報がどのように影響するかを評価する。特に荷重関連情報に関しては、歩行時特異的にIb入力による反射が機能転換するのか、新たな電気生理的手法で確認する。 課題4:TONE系とCPG系を構成する脊髄神経回路のモデル化。目標4:両方の系に結合する下行路、求心路を含めた脊髄神経機構の新たなモデルを作成する。 これらの課題と目標のうち、特に課題3について電気生理学的実験を中心に取り組み、目標4のモデル作成をめざす。当初予定した脊髄損傷者の実験を減少させ、健常者での実験をさらに推進する。
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