研究課題/領域番号 |
23300217
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松川 寛二 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 教授 (90165788)
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研究分担者 |
小峰 秀彦 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 研究員 (10392614)
定本 朋子 日本女子体育大学, 体育学部, 教授 (30201528)
浜岡 隆文 立命館大学, スポーツ健康科学部, 教授 (70266518)
梁 楠 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 助教 (70512515)
丹 信介 山口大学, 教育学部, 教授 (00179920)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | セントラルコマンド / 脳活動の計測 / 中枢性循環調節 / 随意運動 / 大脳皮質 / 中脳腹側被蓋野 / 動脈血圧反射 / スポーツ科学 |
研究概要 |
心拍数は随意運動の開始に数秒先行して増加する。自律神経系や心臓洞結節での遅延を考慮すると、高位中枢は少なくとも運動開始の約10秒前には活動を開始し自律神経系へ下降性制御信号(セントラルコマンドと呼ぶ)を送らねばならない。本研究はセントラルコマンド発生源を探索しその遠心性経路や活動様式を解明することを目的とし、ヒトや実験動物を用いた相補的な研究を実施した。 1)ヒトを用いた研究: 昨年度に開発した運動解析システムを用いて、自転車運動の時間経過や筋力動態を精密に評価した。全頭型多チャンネル近赤外分光法を用いて、運動開始前後や運動中にみられる大脳皮質各部の酸素化ヘモグロビン動態(Oxy-Hb)を計測した。Oxy-Hbは局所脳組織血流量を反映し間接的に脳活動量に対応する。頭蓋上のプローブ配置から計測部位をデジタイザを用いて標準脳に投影した。その結果、大脳皮質前頭前野の脳活動の増加は運動開始に約10秒先行するが運動中に持続しない事、逆に運動関連領域の脳活動は運動中に増えるが運動開始には先行しない事を解明した。 2)動物を用いた研究: 視床下部尾側部で除脳した動物は自発運動を誘発できる。除脳下で起こる自発運動を随意運動モデルとして、運動開始に先行する脳活動を探索した。特に中脳腹側被蓋野(VTA)がセントラルコマンドの発生に関与するという仮説を調べるため、VTAの組織脳血流量をレーザー血流計で記録した。その結果、自発運動開始に同期してVTA組織血流量は増加した。c-fos染色で自発運動中に興奮する脳幹活動部位を網羅的に探索すると、c-fos陽性細胞がVTA内において観察された。以上の所見は自発運動と対応する中脳VTA脳活動の存在を示唆する。ヒトの研究結果を一緒に考慮すると、大脳皮質前頭前野は中脳VTAにある神経回路をトリガしてセントラルコマンドを発生させるという新しい仮説が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セントラルコマンド発生機構の探索という当初の研究計画を進めるため、ヒト随意運動時にみられる大脳皮質各部の脳活動を全頭型多チャンネル近赤外分光計を用いてマッピングした。その結果、大脳皮質前頭前野の脳活動の増加は運動開始に約10秒先行するが運動中に持続しない事、逆に運動関連領域の脳活動は運動中に増えるが運動開始には先行しない事を明らかにした。随意運動の開始前後にみられる大脳皮質全体の脳活動の時空間的な推移と変容から、大脳皮質の前頭前野はセントラルコマンドの発生に関与する可能性を持つけれども、大脳皮質の運動関連領域はセントラルコマンドの発生とは無関係であることが示唆された。実験動物を用いた研究では、除脳下で起こる自発運動を随意運動モデルとして、運動開始に先行する脳活動を探索した。特に中脳腹側被蓋野(VTA)がセントラルコマンドの発生に関与するという仮説を調べるため、VTAの組織脳血流量をレーザー血流計で記録した。その結果、自発運動開始に同期してVTA組織血流量は増加した。またc-fos染色で自発運動中に興奮する脳幹活動部位を網羅的に探索すると、c-fos陽性細胞がVTA内において観察された。このような結果から、中脳VTA神経細胞は自発運動と同期して興奮することが考えられた。 ヒトならびに実験動物で得られた研究成績から、大脳皮質前頭前野は中脳VTAにある神経回路をトリガしてセントラルコマンドを発生させるという新しい仮説が着想された。このように実験結果に基づき新しい概念を提案できたので、「随意運動に先行する脳活動の同定-セントラルコマンド発生機構の探索」という本研究課題の現在までの達成度に関して、「おおむね順調に進展している」と自己点検した。
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今後の研究の推進方策 |
1) 全頭型多チャンネル近赤外分光計を用いた大脳皮質局所組織血流量ならびに脳活動の推測法は高い時間分解能を有するが、その空間分解能は低く、またその研究対象は大脳皮質表層領域に限定される。大脳皮質深層部、大脳基底核ならびに間脳・脳幹の脳活動を高い空間分解能で計測することが必要である。この問題点を補完するために、研究分担者達と機能的核磁気共鳴法(functional-MRI)を用いた研究を推進したい。 2) 除脳動物で起こる自発運動を随意運動モデルとして運動開始に先行する脳活動を探索したところ、中脳腹側被蓋野(VTA)がセントラルコマンドの発生に関与するという仮説を着想した。今後の研究推進策として、VTAから自律神経系に至る下降性神経回路を解明することが重要である。そのために、まず自発運動中に興奮する脳幹活動部位をすべてc-fos染色を用いて網羅的に探索したい。次に、VTAとその他のc-fos陽性細胞群を連絡する神経回路を電気生理学的に同定したい。 3) ヒトおよび実験動物の研究成績から、大脳皮質前頭前野から中脳VTAに至る神経投射が示唆されたので、このような神経回路の存在を実験動物を用いて検証したい。
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