研究課題/領域番号 |
23300218
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
北城 圭一 独立行政法人理化学研究所, 脳信号処理研究チーム, 副チームリーダー (70302601)
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研究分担者 |
末谷 大道 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40507167)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脳 / 神経情報処理 / コンシステンシー / ゆらぎ / 脳波 / 非線形 / 力学系 / 知覚運動連関 |
研究概要 |
不規則な同一ゆらぎ信号の入力の繰り返しにより駆動される非線形力学系における出力は、ある条件の下では直観に反して、出力が過渡的な期間の後に全く同一の時系列パターンを示す。この現象はコンシステンシーと呼ばれる。コンシステンシーはレーザーシステムのような物理系、神経細胞のような生物系でも観察され、多くの非線形力学系に普遍的な性質と考えられる。しかしマクロで大自由度の非線形力学系とみなせる神経集団、特にヒトの知覚運動連関にかかわる脳神経系がどの程度コンシステンシーを有するかについては明らかになっていない。本研究では脳情報処理におけるコンシステンシーとその機能的意義の解明を目指す。 さまざまな視覚的ゆらぎ入力に対する脳波応答をヒト被験者を用いた脳波実験で計測し、時系列解析を行った。同一ゆらぎ実現値の視覚入力に対する脳波応答のコンシステンシーを各電極の脳波信号について検証した。その結果、脳波位相信号のコンシステンシーが主に低周波帯域、視覚野近辺の電極で観察された。 これまでのニューロンモデルを用いた数理モデル研究では主に単一ニューロンモデルを用いてコンシステンシーが検討されている。しかしネットワークレベルの活動のコンシステンシーを調べた研究はほとんどない。そこで結合ニューロン系、具体的には FitzHugh-Nagumoニューロンを用いたニューラルネットワークでのニューロン集団のスパイクタイミングのコンシステンシーを調べた。中程度の結合度を持たせた場合にコンシステンシーが観察され、なおかつ複数のゆらぎ入力のパターンに応じた多様な出力パターンを見せた。結合がない場合にはニューロン集団としてのコンシステンシーはみられず、結合が強すぎる場合には異なるゆらぎ入力を分離、区別することができなかった。コンシステンシーは適度な結合強度をもつニューラルネットワークの特性であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
知覚運動連関に関連する脳波のコンシステンシーを定量化する実験解析手法と方法論を確立し、脳波レベルのマクロな神経集団の活動のコンシステンシーの実証ができた。また数理モデルを用いたニューラルネットワークの結合強度との関連からコンシステンシーを理解することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのコンシステンシーの実験及び理論研究は主に単一ニューロン応答に注目していた。我々の解析も個別の電極の脳波信号に関して行っていたが、今年度はさらに大 域的な活動にコンシスンテンシーがあるかどうかを多電極多次元空間での状態遷移の解析により検証する。さらに今年度作成したニューラルネットワークモデルを発展させ外部から入力を受けた神経集団のネットワークレベルでの状態遷移を詳細に解析し、脳波スケールでのコンシステンシーについての理論的理解を進める。 一方、文脈依存的な情報処理を行うことができるのも脳情報処理の特性の一つである。コンシステンシーの経時変化、文脈依存変化の実験的な検証を行う。異なる時間間隔での輝度知覚実験等を行い、どの時間スケールでコンシステンシーがみられるかについて検証する。さらに、文脈依存的に脳情報処理にバイアスがかかる認知課題によりバイアスがない状態と比べて脳波のコンシステンシーが高まるかどうかを検証する。 出力信号のコンシステンシーの定量化方法はほぼ確立しているが、別の観点からはコンシステンシーは不規則な入力信号X と出力信号Y の間にY=F(X) という関係が存在することを意味する。一般に F は非線形で従来の線形手法ではこの関係性を解明するのは困難である。再生カーネル法の枠組みで正準相関分析(CCA)を非線形の関係性に拡張したカーネルCCAを用いて視覚入力 X と脳波出力、あるいは運動出力 Y の間に生まれる非線形関数 F を具体的に構成し、経時変化や文脈依存性に関する定量解析を進める。 TMSのような短時間の摂動によって生じる試行間での過渡的なコンシステンシーを力学系の観点から理解するため、再帰型ニューラルネットワークによる数値シミュレーションとその理論解析を行う。過渡的なコンシステンシーが生じるために必要なニューロン間の結合構造を明らかにする。
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