研究実績の概要 |
四半世紀前に代表者が国際学会ISBで指摘した「スポーツ動作における体幹の重要性(Fukashiro,1988)」は、現在、ダイナミックな運動のパフォーマンスを高める核として一般に認知されるに至った。これによって例えば、北京オリンピック陸上男子400mリレーの銅メダル獲得のように、日本選手が世界で戦える土台を作った。しかしながら、指導現場における体幹の利用や捻転軸の定義は未だ感覚に基づくものであり、自然科学的に明らかになっているわけではない。そこで、体幹の動きの機序を解明する一連の研究を行った。 これまで多くに選手に適合する動作機序を解明してきたが、最終年度である本年は、ある特定の選手が自己パフォーマンスを超えるための具体的な変数を特定するシミュレーションを行った。具体的には、走・跳・投などの動作を対象に、モーションキャプチャで取得した3次元データの時間軸を変更することにより、目標とする動作スピードを得るための身体各関節の発揮トルク・パワーを推定するというものである。例えば、野球の投動作でボール速度を25%高めるためには、投球腕の肩内旋トルクを54%・パワーを93%増加させなければならないと推定できた。また、ある陸上スプリンターが100mを9秒99で走るための、各関節のトルク・パワーを推定した。この推定結果は、元々の個々人の特徴が反映されるために、個人差が生じる。すなわち、このシミュレーションは特定された個人がどのようにしたら自己パフォーマンスを改善できるかという手法で、個人差を考慮したトレーニング示唆として極めて具体的で、実践的であるといえる。
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