本年度は研究最終年度にあたり、研究代表者および分担者がこれまでに調査した武道の国際化の様々な事例で確認された変容について収集、分析したデータを持ち寄り、継続的に研究会を催した。その上で、それぞれの成果を貫く武道の普遍的な変容理論を導き出すため、議論を重ねた。 研究分担者の一人は、日本からブラジルに渡り、現地で質的な変容を遂げた柔術が、再度、日本に伝えられることで、完全に質の違う格闘術に変容しながらも、一部の実践者らがそれらの同質性を強調する諸言説に、柔術に関する当事者の価値観を重要な要素として論じた。また、もう一人の研究分担者は、戦後、アジア諸国に伝わった武道と当該社会の精神世界との融合し、ルールや技術において現地化した武道に着目した。その上で、それを日本の武道であると主張する当事者たちの認識の中にある、日本の精神世界や日本武道に対する認識の特殊性を変容における重要な要因として論じた。研究代表者は、中国武術の世界伝播の過程で生じた質的な変容事例を基に、伝統武道自体が、異文化に伝播する際に現地文化に受容されるために戦略的に柔軟に変容を遂げる諸事例から、文化の生存理論のような原理が武道の文化的越境に際して生じていることを論じた。 これらの論点は、12月にイギリスのラフバラ大学におけるスポーツ社会学研究者との研究会でも概ね理解を得、またほかのスポーツにおける同様の変容スタイルを確認することができた。 三者の研究成果からも武道の質的な変容理論を説く複数の重要な要素は確認できたが、同時に異文化に置かれても変容しない要素の存在も浮かび上がることになった。変容する要素と同様、当事者の価値観に因るところが大きいが、この点は今後の課題とすることになった。
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