研究概要 |
スポーツにおける代表的な肩関節障害である腱板損傷(インピンジメント症候群)の運動学的な発症要因を明らかにするための前向きコホート研究を実施した。対象者は、慢性肩関節障害の既往歴のない野球投手及び大学競泳選手であった。各投手には、通常の練習を行っているブルペンで投球させた際のデータを収集した。水泳動作の分析については、各選手が室内プールで遊泳する際のデータを収集した。データ収集には電磁ゴニオメータ(Liberty, Polhemus社製, USA)を用いて胸郭、肩甲骨、上腕骨の3 次元運動の計測を行った。 分析した投手63名(プロ野球:28名、実業団野球:11名、大学野球:24名)中、プロ野球投手については7名(25%)、社会人野球投手については2名(18%)、大学野球投手については6名(25%)が肩峰下インピンジメントによる圧迫が投球動作中に生じるという運動学的エビデンスが示された。また、水泳選手については、クロール泳において23名中21名、バタフライにおいて15名中13名、平泳ぎにおいてにおいて15名中13名、背泳ぎにおいて15名中10名から肩峰下インピンジメントによる圧迫が投球動作中に生じるという運動学的エビデンスが得られた。これらの結果は、投球動作時および遊泳時に肩峰下インピンジメントが起こるという仮説を支持するものであった。一方、投球動作時にインターナル・インピンジイントが起こるという仮説を支持する結果は得られなかった。 データを収集した63名の投手の内、複数年にわたりデータの収集を実施することのできた者は28名であった。これらの投手の中で肩峰下インピンジメントによる圧迫が生じる運動学的エビデンスが繰り返しみられた者が6名、その内で後に肩痛を発症したものが4名あった。この縦断分析の結果は、運動学的に判定可能な障害発症要因と実際の発症との間に因果関係があることを示すものであり、臨床的に高い意義を有する知見である。
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