研究課題
本研究の目的は、運動疲労時の中枢神経系における運動制御機構を統合的に解明することである。平成20~22年度基盤研究(C)「運動疲労時における中枢制御機構の解明」において脳における抑制系システムの存在を証明してきたが、本研究ではさらに進めて、疲労・抑制系システム・意欲・ストレスの観点から脳機能イメージング手法を駆使して系統的に実験を行い、運動疲労時の中枢神経系における動作制御機構を統合的に解明する。本年度は、健常被験者を対象として、運動による疲労困憊状態を古典的に条件付けさせた状態で惹起し、運動疲労時の運動野に対する促進システムの神経基盤を明らかにした。12人の右利きのボランティアを対象とした脳磁図(MEG)研究を実施した。身体的疲労の脳活動を引き起こす無条件刺激として右手によるハンドグリップの最大把握を、条件付け刺激としてメトロノーム音を使用した。条件付け後における、10分の間メトロノーム音によって導かれる右手の最大把握のイメージの、金銭的報酬の有無による脳活動の違いを、MEGを用いて評価した。意欲有り条件では、無し条件に比し、感覚運動野や背側前頭前野の脳活動が高く、さらに、感覚運動野の活動は背側前頭前野のそれと正の相関を認めた。このことは、背側前頭前野が、意欲により、感覚運動野の活動を賦活したこと、すなはち、促進システムにおいて中心的な役割を有していることを示唆している。昨年度の研究で、背側前頭前野は抑制システムにおいて中心的な役割を有していることを示しており、本年度の研究成果と合せて、背側前頭前野のパフォーマンス制御の主要な脳部位であることを明らかにした。本研究の成果は、運動疲労時の中枢神経系における動作制御機構解明にとって重要な知見であると同時に、慢性疲労病態解明の糸口になる意義深いものであると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、健常被験者を対象として、運動による疲労困憊状態を古典的に条件付けさせた状態で意欲を賦活させ、運動疲労時の運動野に対する促進システムの神経基盤をMEGを用いて明らかにした点で、おおむね順調に進展していると判断できる。
平成23年度は、健常被験者を対象として、古典的条件付け手法を用いて身体的労作を想起させる実験を行い、運動疲労時の抑制の神経基盤を明らかにし、平成24年度は、健常被験者を対象として、意欲操作をした状態で身体的労作を想起させる実験を行い、運動疲労時の意欲の神経基盤を明らかにした。平成25年度は、これらの知見を基盤として、健常被験者を対象として、ストレス・精神的疲労負荷課題遂行後に身体的労作を想起させる実験を行い、運動疲労時におけるストレスストレス・精神的疲労の中枢神経系動作制御機構に対する影響を明らかにする。
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