本研究の目的は、尿検体から生活習慣病マーカーとなる物質の同定を目指している。2011年度に若年者である本学の新入生から尿検体を回収し、新入生の尿中の酸化ストレスマーカー、炎症マーカー(MCP-1)、レニン・アンジオテンシン系の活動マーカーとなるアンジオテンシノージェン、カルボニルストレスのマーカーであるカルボニル物質を測定した。その結果、若年肥満者において尿中アンジオテンシノージェン、MCP-1排泄量が血圧と関係があることが分かった。つまり肥満若年者の中でも血圧が高い人ほど尿中アンジオテンシノージェン、MCP-1の排泄量が有意に多かった。さらに追跡調査を行うため、尿中アンジオテンシノージェン排泄量が高い若年肥満者において、1年後、2年後に血圧がどのように変化するかを確認した。しかし、2012年度、2013年度の学生健診で得られたデータを基に解析を行ったが、若年者を対象とした2年間の追跡解析であったため、有意な傾向は認められなかった。 そこで本研究では、高齢者を含む20歳以上の一般住民を対象とした解析も行った。市民検診時に尿検体を回収し、同様に尿中の各種マーカーを測定した。無作為に選出した434名(男性:204名、女性:230名)において、尿中アンジオテンシノージェン排泄量が多い人ほど、血圧が高いことが分かった。これに加え、今年度は尿中カルボニル物質排泄量を測定し、血圧との関連を調べた。カルボニル物質は、メチルグリオキサール(MG)、グリオキサール、3-デオキシグルコソンの測定を行った。これらのカルボニル物質と血圧との関連を調べた結果、尿中AGT排泄量と同様にMG排泄量も血圧と関連していることが分かった。以上の結果から、尿中アンジオテンシノージェン排泄量は若年者と一般住民において血圧と関連することから、生活習慣病特に高血圧の早期スクリーニングに有用であることを示唆した。
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