研究課題/領域番号 |
23300247
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒谷 薫 日本大学, 工学部, 教授 (90244350)
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研究分担者 |
岡本 雅子 帯広畜産大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00391201)
小林 寛道 日本大学, 国際関係学部, 教授 (60023628)
辻井 岳雄 日本大学, 医学部, 研究員 (80424216)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | NIRS / prefrontal cortex / stress / working memory / cognitive function / physical exercise / aging / depression |
研究概要 |
1)抑うつに対する運動のストレス緩和効果:うつ傾向の中年女性に対して有酸素運動(VO2max 50%以下)を10分間負荷し、心理テスト(STAI、POMS)、唾液中コルチゾールの変化を測定した。またNIRSを用いて前頭前野の神経活動(酸素化ヘモグロビン(Hb)濃度変化)を計測した。その結果、運動により状態不安 (STAI)、緊張不安・抑うつ落込み等(POMS)が改善し、コルチゾールが低下することが明らかとなった。さらに、前頭前野の酸素化Hb濃度は増加した。運動は、抑うつ状態の前頭前野を活性化することによりストレスを緩和し、うつ傾向を改善したと示唆された(自律神経学会誌revision中)。 2)高齢者のストレスと高次脳機能に対する運動効果:高齢者を運動群(VO2max 40%、10分間)と非運動群に分類し、ストレスと高次脳機能に対する運動効果を検討した。運動群では、STAIスコア、唾液中コーチゾールが減少し、ワーキングメモリー(WM)課題(Sternberg test)の反応時間が短縮した。さらにWM課題中の前頭前野の酸素化Hb濃度の上昇程度が増大した(Adv Exp Med Biol 2013)。高齢者においても、運動のストレス緩和効果が認められた。さらに運動により高次脳機能が向上し、その神経基盤として前頭前野が関与していることが示唆された。 3)安静時NIRS信号によるストレス評価法の開発:NIRSによるストレス評価法ではストレス課題(暗算)に対する酸素化HB濃度変化を計測するが、高齢者の中には暗算課題が困難な例が存在した。また課題を繰り返し行うと、adaptationのためHb濃度の変化量が減少していく傾向が認められた。これらの欠点を補うため、機械学習を用いて安静時のNIRS信号より脳のストレス状態を予測する方法を開発した(Adv Exp Med Biol 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)運動のストレスに対する短期的効果について、以下の点を明らかにすることができた。①(有酸素)運動は、状態不安 (STAI)、緊張不安・抑うつ落込み(POMS)等の心理的ストレスを改善する効果がある。②運動は、内分泌系(HPA axis)を抑制しコーチゾールの分泌量を低下させる。③運動は、抑うつ状態の前頭前野を活性化する。これらの結果は、運動のストレス緩和効果の神経基盤には、前頭前野の活性化が関与していることを示唆している。 2)運動の高次脳機能に対する短期的効果について、以下の点を明らかにすることができた(Adv Exp Med Biol 2013)。①短時間の軽い運動を行うことにより、ワーキングメモリー課題(Sternberg test)の反応時間が短縮した。②ワーキングメモリー課題遂行中の前頭前野の酸素化Hb濃度の上昇程度が増大した。若年者では10分間の有酸素運動によりStroop課題中の前頭前野の活動程度が増加することが報告されているが (Yanagisawa et al. 2010)、高齢者においてもワーキングメモリー機能が改善し、その神経基盤として前頭前野が関与していることが示唆された。 3)NIRSを用いたストレス評価システムを改良した。従来のNIRSによるストレス評価法では、暗算課題中のHB濃度変化を計測するが、adaptationのため繰り返し脳のストレス反応を評価できない可能性が出てきた。そこで、機械学習を用いて安静時のNIRS信号より脳のストレス状態を予測する方法を開発した(Adv Exp Med Biol 2013)。安静時のNIRS信号を解析するので、ストレス反応を経時的に捉えることができ、運動の長期的効果を調査することができる。
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今後の研究の推進方策 |
1)高齢者の重視:本研究では幅広い年齢層を対象としているが、最近の急速な高齢化や高齢者の健康問題を考慮して、高齢者を重視した研究を行う。 2)運動の長期的効果:これまで主に運動の急性効果(acute effect: 運動直後の脳機能を測定)を検討してきたので、今後は数ヶ月に及ぶ長期間の運動プログラムが脳活動に及ぼす効果(慢性効果:chronic effect)についても研究する。 3)運動プログラムの開発:どのような運動を行えばより効果的にストレス緩和効果や認知機能改善につながるのかを検討していく。
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