研究課題/領域番号 |
23300256
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研究機関 | 鹿屋体育大学 |
研究代表者 |
金久 博昭 鹿屋体育大学, スポーツ生命科学系, 教授 (50161188)
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研究分担者 |
高井 洋平 鹿屋体育大学, スポーツ生命科学系, 助教 (20574205)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 自重負荷エクササイズ / 筋活動水準 / ウオーキング / 自重負荷スクワット / 膝関節伸展力 / ブレーシング / 中年齢者 / 後期高齢者 |
研究概要 |
本年度は、1)日常生活動作および自重負荷エクササイズの筋活動水準の明確化(課題1)、および2)中年者ならびに後期高齢者に対する自重負荷エクササイズによるトレーニングの効果(課題2)を検証した。まず課題1では、特に下肢筋群の筋量・筋力の維持・増進に有効な日常生活動作および自重負荷エクササイズについて検証した。その結果、①運動処方として代表的なエクササイズであるウオーキングは、下腿三頭筋の筋活動水準を高いものにするが、大腿四頭筋に対しては、歩行速度および歩行時間に関係なく筋量・筋力の維持・増進を満たしうる筋活動水準を引き起こし得ないこと、②大腿四頭筋に対し、筋量・筋力の維持・増進に有効と考えられる負荷刺激を与えうる自重負荷動作は、その場での膝屈伸・屈曲動作(スクワット動作)であり、それによる負荷刺激の大きさは、ライフスタイルに関係なく個人の体重当たりの膝伸展力に依存し、体重当たりの膝伸展力が1.4~1.5 Nm/kg以下の人では、自重負荷スクワットによって、大腿四頭筋の筋量・筋力を維持・増進するうえで必要な筋活動水準を得ることができる可能性が示唆された。また、課題1では、体幹部筋群に対するエクササイズについても検討した。その結果、運動処方およびスポーツトレーニングのいずれを問わず、広く採用されている上体起こし(腹筋運動)や上体そらし(背筋運動)に比較して、腹部および下背部の筋群の同時収縮(ブレーシング)は、脊椎の安定に貢献する腹部深部筋に高い筋活動を引き起こしうることが明らかになった。課題2では、自重負荷スクワット動作によるトレーニングを、運動習慣を持たない中年齢者および後期高齢者に処方し、その効果を検証した。その結果、中年齢者および後期高齢者のいずれにおいても、膝関節伸展力に有意な改善が得られ、自重負荷スクワットエクササイズの有効性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、1)日常生活動作および自重負荷エクササイズの筋活動水準について検討したことに加え、2)1)の結果に基づき効果的なトレーニング動作を特定し、それを中年者ならびに後期高齢者に適用することで、その効果の実態を検証することができた。その過程において、1)一般人の運動処方として広く採用されているウオーキングについて、歩行速度および歩行時間との関係から検討し、ウオーキングは下腿三頭筋の筋量・筋機能を維持・増進するうえで有効であるが、四肢筋群のなかで最も不活動や加齢の影響を受けやすい筋群の一つである大腿四頭筋に対しては、歩行速度・歩行時間に関係なく、筋量・筋機能を維持・増進するうえで必要な筋活動水準を引き起こし得ないこと、2)大腿四頭筋に高い筋活動水準をもたらすためにはスクワット動作が有効であり、その程度は、個人の運動習慣や生活習慣ではなく、体重当たりの筋力に依存する可能性があることを明らかにした。また、体幹部の筋群のエクサイサイズとして、腹部および下背部の筋を同時収縮(ブレーシング)させた際の筋活動水準の特徴についても検討し、椅座位の状態でも実施可能な腹部筋群のトレーニング方法についての示唆も得られた。さらに、上記1)および2)の結果に基づき、中年齢者および後期高齢者における自重負荷トレーニングの有効性を確認し、特に後期高齢者においては、トレーニングの実施による筋力の増加に伴い作業課題中の筋活活動水準の低下が観察され、日常生活活動における困難度の軽減にも繋がることが示唆された。これら一連の成果は新規性に富むものであり、学術的にも価値あるものと考えられる。一方、当初、日常生活中の長時間筋電図の計測を実施し、その定量結果とトレーニングの効果との関係についても検討する予定であったが、長時間筋電図データの取得およびその処理が不十分であり、その点が次年度の課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、自重負荷エクササイズによる下肢筋群の筋活動水準は、年齢・性や運動習慣の有無に関係なく、体重当たりの筋力に依存することが示唆された。このことは、自重負荷エクサイサイズをトレーニングとして採用した場合に、それによってもたらされる筋量・筋力に対するトレーニング効果の程度は、年齢・性あるいはライフスタイルとは無関係に、トレーニング実施前の個人の体重当たりの筋力レベルの影響を受けることを意味する。一方、これまでに検証した自重負荷エクササイズ中の筋活動水準は、トレーニングとしてのエクササイズ実施回数を10~15回以内に設定した場合を条件としたものである。それゆえ、それら一連の成果は、筋力レベルの低い者に対しては、自重負荷エクササイズの効果の程度を判断する指標に成りうると考えられるが、筋力レベルの高い者にとっては、トレーニング刺激として不十分である可能性も否定できない。一方、トレーニングプログラムの設定条件には、強度以外にエクササイズの時間が構成要素として含まれる。したがって、筋力レベルが高い者であっても、エクササイズの実施時間(実施回数)によっては、筋活動水準が筋量・筋力の維持・増進を可能にするレベルに達することが予想される。そこで、次年度は、1)下肢筋群を対象に、自重負荷エクササイズの実施回数と筋活動水準および個人の体重当たりの下肢筋力との関係について明らかにすること、2)1)の結果に基づき、個人の体重当たりの筋力に見合うエクササイズの実施条件を設定し、その効果について検証すること、および3)日常生活中の長時間筋電図計測を実施し、2)において設定されたプログラムが下肢筋群にもたらしうる筋活動量が、日常生活活動全体の筋活動量のなかでどの程度の割合を占めるのかを確認し、下肢筋群の筋量および筋力の維持・増進に必要な自重負荷エクササイズのトレーニング量を検討する。
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