研究概要 |
平成23年度は,ヒトの眠りの質を左右し,清潔で健康的な睡眠環境を構成すると考えられる枕カバーに着目し,付着した体臭成分を分析すると共に,臭気成分と付着した細菌や汚れとの関係について検討を試みた。被験者は健康な女性10名(24±0.9歳)と男性5名(55±2.6歳)を対象とし,試料布には綿100%のブロードとタオル(5×17cm)を用いた。就寝時枕の上に試料布を設置し,所定の日数(7,14,21,28日間)枕カバーとして使用した綿布の臭気成分の分析,細菌数の算定,付着有機物(皮膚分泌物,細菌等)中のATPの検出を行い,試料布の汚染の程度を把握した。体臭成分の分析は,本申請により購入したサーマルディソープションシステムを,ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS QP-2010,島津製作所)に追加設置して定性および定量分析を行った。また,必要に応じてヘッドスペース法を用いて分析した。その他必要に応じて,におい識別装置(FF-1,島津製作所)により,9種の基準ガス,硫化水素,メチルメルカプタン,アンモニア,トリメチルアミン,プロピオン酸,トルエン,酢酸ブチル,ブチルアルデヒド,ヘプタンとの類似性を基に臭気のタイプ分析を行った。GC/MSによる定量分析の結果から,男性被験者の試料ではアルデヒド系化合物(n-octanal,n-nonanal,trans-2-nonenal,n-decanal)が使用日数の長さに伴い増加する傾向を示した。女性では男性と比較してアルデヒド系化合物は少量だった。におい識別装置による分析においては,硫化水素,硫黄系,アミン系,アルデヒド系が強く,炭化水素系,アンモニアはほとんどの試料で検出されなかった。官能評価では,女性は人体から発生する生臭いにおい,脂肪酸系のにおいに反応して"不快"と感じる傾向が認められた。細菌数及びATP付着量は枕カバーの使用日数の長さに伴う増加傾向が認められたが。また全ての被験者でブロードよりもタオルの方が汚れが付着しやすく,細菌が繁殖しやすいことが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,衣服および靴下や手袋,枕カバー等,ヒトが身に着ける広範囲の素材について,そこから発生する臭気成分を包括的に分析することを目的としたが,本年度は,申請により購入したサーマルディソープションシステムをGC/MSに追加設置し,安定した測定が出来るまで期間を要したため,主たる研究対象としては,枕カバーをについて検討するに留め,その他の素材については不十分な状態である。平成24年度は,研究の対象物の幅を広げ,多種の素材について検討をしていくことを目標としたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降は,平成23年度に購入,設置した集気装置のサーマルディソープションシステムを用いての分析において安定したコンディションで分析できるように方法を検討し,多くの素材について,発生する臭気成分を集気・採集,濃縮し,微量な成分に至るまで包括的に定性および定量分析を行っていくことを目的とする。また,体臭成分と皮膚表面の性状(角質水分量,油分量,pHおよび清浄度)との関連性や,また体臭成分と皮膚常在菌や布地における細菌叢との関係について検討していきたい。
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