研究課題/領域番号 |
23300268
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研究機関 | 独立行政法人建築研究所 |
研究代表者 |
加藤 真司 独立行政法人建築研究所, その他部局等, その他 (50523388)
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研究分担者 |
桑沢 保夫 独立行政法人建築研究所, その他部局等, その他 (30251341)
樋野 公宏 独立行政法人建築研究所, その他部局等, その他 (30391600)
橋本 剛 筑波大学, 芸術系, 准教授 (70400661)
石井 儀光 独立行政法人建築研究所, その他部局等, その他 (80356021)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 緑のカーテン |
研究概要 |
平成24年度は、東京都足立区にあるUR都市機構所有の花畑団地の空き住戸を活用して、緑のカーテンの有無による心理効果の検証実験を実施した。平成23年度に別の団地の空き住戸を使用して測定した緑のカーテンによる節電効果よりも、アンケート調査から求めた実際の家庭の緑のカーテンによる節電効果の方が大きい傾向が見られたことから、単なる物理的環境改善効果以外の要因の存在可能性がうかがえたこと、また、アンケート調査では、室内から見える緑のカーテンの窓辺景観が心地良く涼しげだという指摘が多数あったことから、緑のカーテンの存在によって心理的に室内温度をより低く感じ取っている可能性があったために、心理効果の検証実験を実施したものである。 心理効果の実験の被験者として花畑団地居住者及び当団地の工事関係者から参加希望者を募り、98名の参加があった。実験は、4居室を使用し、2居室に緑のカーテンを設置し、他の2居室には何も設置しなかった。これらの4居室にはエアコンを設置して、屋内の室温を強制的に調整できるようにした。その上で、部屋の中央に据え付けた各種センサー(室温、放射温度、湿度、風速)などをもとに温熱環境指標であるSET*を求めた。また、一方で、被験者には各室内の温冷感を申告してもらうこととした。申告の方法は数値評定尺度と直線評定尺度を用いたので、評価を数値に換算することが可能である。こうして求めたSET*と申告値の関係から、緑のカーテンを設置した部屋で心理的に感じる室温は、緑のカーテンの無い部屋よりも低く感じ取っていることが分かった。つまり、緑のカーテンによる心理効果が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平成23年度から実施してきており、平成23年度は千葉県柏市にあるUR都市機構所有の豊四季台団地の空き住戸を用いて、緑のカーテンによる屋内温熱環境改善効果を測定した。比較条件は、緑のカーテンの設置面積の違いや他の素材(簾)との比較で、この実験の結果、緑のカーテンによる屋内温熱環境改善効果が確認できた。また、窓を開け放った状態での屋内の体感温度測定実験でも、緑のカーテンの有利性が確認できた。 平成23年度には、併せて浜松市内の緑のカーテンの設置者に対するアンケート調査を実施し、各家庭の電気使用量の経年変化から、緑のカーテンによる夏季の節電効果を導いた。また、同時に緑のカーテンの利用実態等について尋ねたため、維持管理の頻度や窓の開閉状況などの被験者の動態が把握できた。この結果、緑のカーテンの設置によって窓の開放がうながされるという結果が得られた。このことは、集合住宅を使った実験から得られた結果とも一致するところである。 なお、平成23年度の研究結果からは、測定実験によって得られた緑のカーテンによる節電効果よりも、アンケート調査から得られた節電効果の方が高いことから、平成24年度に緑のカーテンの有する心理効果の把握のための実験を行ったところであり、実験によりその効果が確認できた。以上のような一連の研究を通じて、緑のカーテンの多面的な効果の把握と、効果的な活用方法に関する知見の集積が得られたところである。 本研究課題の研究目的は、緑のカーテンの効果や特性を、それを活用する者の生活行動との関連性から導きだし、そこからより効果的な緑のカーテンの活用方法を導くことにあったが、現状までの間では、期待通りの実験結果が得られている。よって、本研究はおおむね予定通りに進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、過年度に得られた緑のカーテンの効果的な活用方法に関する知見をとりまとめ、その知見が実際に緑のカーテンの普及に役立つかを検証する。具体的には、緑のカーテンに関する知見を簡潔なパンフレットにまとめ、これをUR都市機構の団地居住者で緑のカーテンを実践する者に対して配布するとともに、当パンフレットの内容が実際に有益かを検証するためのアンケート調査を実施する。配布対象は5千戸を予定し、すでにパンフレットやアンケート票等の印刷作業を終え、現在、その配布準備中である。 さらに、過年度の研究結果からは、建物の形状によっては、緑のカーテンによる物理的環境改善効果よりも、緑のカーテンによる窓辺景観による心理的な効果の方が大きい場合も想定されるため、窓辺景観の向上目的のための緑のカーテンの新たな形態を導き、その試験体を製作することとする。この試験体を人目のつくところに設置し、その効果の検証を行うことを予定している。 なお、今年度は本研究課題の最終年度のため、3ヶ年度の研究成果のとりまとめを行い報告書としてとりまとめる。
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