研究課題/領域番号 |
23300269
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
久保田 紀久枝 東京農業大学, その他部局等, 教授 (90008730)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 香気成分 / 呈味改変効果 / ピーマン加熱香気 / ダマセノン / バジル香気成分 / ミルクスープ / オイゲノール / 官能評価 |
研究概要 |
食べ物の嗜好性に大きく関与するにおい成分の呈味改変効果について、分子レベルで解明することを目的とし、昨年度に引き続き、研究を行った。野菜についてはピーマンを、またハーブとしては、バジルについて、化学分析と官能評価を併用し、呈味に影響を与える香気成分の検索を行った。青ピーマンは、加熱しても青臭く、いやな味が口に残るのに対し、完熟した果実である赤ピーマンは、加熱すると、芋のような甘さとフルーティな香りがあり、食べやすいことから、赤ピーマンの加熱香気に青ピーマンのいやな風味をマスキングする成分があると想定し、検索した。青ピーマンより水蒸気蒸留で香気成分を除いた残渣水溶液をモデル味液とし、青及び赤ピーマンのにおい成分を個々の成分から全体まで種々添加し、香気成分の呈味への影響を調べた。その結果、赤ピーマン加熱香のβ―ダマセノンやβ―ヨノンに芋のような甘さやフルーティーな香りを増強し、青ピーマンの嫌な味を軽減する効果が認められた。野菜ジュース等の嫌な風味軽減に役立つ可能性が示された。また、昨年度、バジルの香気成分のトマトスープ類の風味増強効果が示唆されたことより、今年度、市販のスープ濃縮物ではなく、実際にチキンブロスを調製し、トマトスープより顕著な影響が認められたミルクスープについて、バジル香気成分の風味増強について精査した。バジル香気画分には、においがほとんど感じられない程度の微量加えただけで、顕著なミルクスープのコク増強効果が認められた。キャピラリーカラムを用いたGC分取システムで数画分に分画し、効果の顕著な画分を取り出し、さらに各構成成分について検討した結果、オイゲノール、チモール、イソチモールなどに風味増強効果が認められたが、それだけでは、バジル香気による効果には及ばなかったことより、来年度、未知成分について合成を行い構造決定するとともに、風味増強効果を精査することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鼻をつまんで食べ物を喫食すると、食べ物がどんな味なのかよくわからない、すなわち、香りによって食べ物の味が決まるということはよく知られている。したがって従来は、食べ物の味に寄与する香り成分を明らかにすることを目的として香気分析を行ってきた。また今後も重要香気の解明は最優先の課題である。一方、本研究は、素材の香りには寄与しないほどの微量な成分、あるいは、閾値が高く、ほとんどにおわない揮発性成分にも、食品の味を増強したり、コクなどの風味を増強する働きがあることを科学的な根拠をもって明らかにし、かつできるだけ多くのそのような機能を持つ成分を見出し、食品加工に利用できる知見を集積することを目的としている。しかし、揮発性成分の数は膨大で、その中から特定の機能を持つ物質を探索するのは容易ではない。本研究では、野菜やだし汁の素材、ハーブやスパイスなどを様々な素材を対象として、スクリーニング的に分析をしてきた結果、いくつか有望な物質が見出されており、研究目的をかなり達成しつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
においを感じない程度のごく微量の化学物質の刺激が呈味に影響する事例をできるだけ多く発見し、香気成分の新しい機能として確立したい。発展として、たとえば、塩味増強作用を持つ香気成分を使うことにより、食塩摂取量を減らすことができるなど保健機能を持つ加工食品の開発が容易となるなど、社会的波及効果は大きいと考える。
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