研究課題/領域番号 |
23300273
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中井 雄治 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特任准教授 (10321788)
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研究分担者 |
石島 智子 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特任助教 (80568270)
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キーワード | 高リン食 / DNAマイクロアレイ / ラット / 腎臓 / 肝臓 / 遺伝子発現 / NaPi-IIb |
研究概要 |
リンは、骨などを形成するのに必須なミネラルであるが、近年、インスタント食品や清涼飲料水などに含まれるリンによる過剰摂取が問題となっている。過剰摂取による症状としては骨成長不良や副甲状腺機能の異常亢進などが知られている。しかしながら、意外なことにリン過剰摂取時の遺伝子発現レベルでの解析は数例の報告があるのみで、網羅的解析は行われていない。そこで本研究では、1)高リン食負荷をかけた際のラットモデルを用いて、主要な臓器における遺伝子発現変動を網羅的に解析することによるリン恒常性調節機構の遺伝子発現レベルでの統合的な解明、2)リン過剰摂取を早期に反映する血中バイオマーカーの探索、の2点を目的とし、現代的な食生活で起こりうるリン過剰摂取の問題への対処を目指した。本年度は、1)について研究を行った。4週齢Wistar系雄性ラットを1週間の予備飼育後、2群に分け、AIN93G食をベースにした通常含有量のリンを含む飼料(0.3%P:通常食群)と、高リン飼料(1.2%P:高リン食群)で3週間飼育した。最後の一週間は、代謝ケージを用いて、糞、尿の採取を行い、リンの出納試験を行った。飼育修了後、腎臓・肝臓等を摘出し、RNAを抽出してDNAマイクロアレイ解析を行なった。その結果、腎臓においては、高リン食摂取によってナトリウム依存性リン酸共輸送体であるNaPi-IIbが顕著に発現上昇することを明らかにした。タンパク質レベルの解析で、高リン食群においてNaPi-IIbは尿管上皮細胞の基底膜側に多く発現していることが示唆され、リンの積極的な排泄に関わると考えられた。現在、肝臓のマイクロアレイ解析を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで腎臓での働きがほとんどわかっていなかったリン酸共輸送体のNaPi-IIbが、高リン食摂取時のリン排泄に働いている可能性を初めて示すことができ、投稿論文として発表することができた。これは、リン恒常性調節機構の一端を明らかにしたことになる。さらに、生体の高リン状態と代謝の関係を明らかにすべく、高リン食摂取時の肝臓のDNAマイクロアレイ解析に既に着手していることがその理由である。
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今後の研究の推進方策 |
現在行なっている高リン食摂取肝臓のマイクロアレイ解析をさらに進め、肝臓で起こっている遺伝子発現変動からどのような代謝の変化が起こっているかを予測する。分泌タンパク質の変動だけでなく、代謝物の変化も視野にいれ、必要に応じてメタボローム解析も行なう。副甲状腺、甲状腺については解剖学的に採取が困難であったため、一旦保留とし、詳細なデータがとれている腎臓と肝臓を中心に今後研究を進めていく予定である。3週間の高リン食摂取の影響に関する解析を進めつつ、より短期の高リン食摂取で起こる変化について同様にマイクロアレイ解析を用いて捉える。
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