研究課題/領域番号 |
23300273
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中井 雄治 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10321788)
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研究分担者 |
石島 智子 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (80568270)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高リン食 / DNAマイクロアレイ / ラット / 肝臓 / FGF21 / 脂肪酸組成 / エネルギー代謝 |
研究概要 |
リンは骨などを形成するのに必須なミネラルであるが、近年、インスタント食品や清涼飲料水などに添加物として含まれるリンの過剰摂取が問題となっている。過剰摂取による症状としては骨成長不良や副甲状腺機能の異常亢進などが知られている。しかしながら、意外なことにリン過剰摂取時の遺伝子発現レベルでの解析は数例の報告があるのみで、網羅的解析は行われていない。そこで本研究では、1)高リン食負荷をかけた際のラットモデルを用いて、主要な臓器における遺伝子発現変動を網羅的に解析することによるリン恒常性調節機構の遺伝子発現レベルでの統合的な解明、2)リン過剰摂取を早期に反映する血中バイオマーカーの探索、の2点を目的とし、現代的な食生活で起こりうるリン過剰摂取の問題への対処を目指した。24年度は1)および2)について、並行して研究を行った。23年度同様、4週齢Wistar 系雄性ラットを1週間の予備飼育後、2群に分け、通常含有量のリンを含む飼料(0.3%P:通常食群)と、高リン飼料(1.2%P:高リン食群)で3週間飼育した。肝臓のマイクロアレイ解析の結果、高リン食摂取による脂肪酸β酸化の亢進、アミノ酸異化の抑制が明らかになった。さらに、脂肪酸合成は抑制される一方で、不飽和化やアシル鎖の延長に関与する遺伝子の発現上昇が認められたため、肝臓中の脂肪酸組成をメタボローム解析で調べた結果、高リン食群でω3、ω6脂肪酸が有意に高い値を示した。また、肝臓中の発現変動遺伝子中に、これらの鍵となる因子であるFGF21の発現上昇を見いだした。そこで、FGF21タンパク質の血中濃度を測定したところ、高リン食群で高値となる傾向を示した。現在、FGF21の標的臓器のひとつである白色脂肪組織について解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで生体の高リン状態とエネルギー代謝の関係についてはほとんど報告がなかった。今回、高リン食摂取時の肝臓のDNAマイクロアレイ解析によって、エネルギー代謝が影響を受けることを明らかにした。さらに、メタボローム解析によって遺伝子発現解析の結果が一部検証された。またこれらの変化の鍵となる分子としてFGF21を見いだした。これらのことより、高リン食摂取による生体の変化の新しい側面が明らかになったことが主な理由である。また、マイクロアレイ解析の結果から代謝物や血中のタンパク質の量的変化をある程度予測でき、バイオマーカー探索のアプローチとして妥当であることが確認できたことももうひとつの理由である。
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今後の研究の推進方策 |
現在行なっている高リン食摂ラット取白色脂肪組織のマイクロアレイ解析をさらに進め、肝臓での代謝の変化とのクロストークについて検討する。3週間の高リン食摂取の影響に関する解析を進めつつ、より短期の高リン食摂取で起こる変化について同様にマイクロアレイ解析を用いて捉える。24年度にバイオマーカー候補のひとつとしてFGF21を見いだしたが、さらにマイクロアレイデータをもとにして、FGF21以外にも高リン状態を早期に反映するバイオマーカー候補分子の探索を行う。24年度同様、必要に応じてメタボローム解析も行なう。
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