研究課題
1. 雌性ラットにおける精神性ストレス時のエストロゲンによる循環反応緩和のメカニズム①急性ストレス時の昇圧反応におけるRenin-Angiotensin系の関与とエストロゲンの抑制効果:成熟ラットを卵巣摘出+プラセボ群とエストロゲン補充群の2群に分けた。17週齢でケージ交換ストレスを負荷し、エストロゲンがストレスによる血漿レニン活性、AngiotensinII・Aldosterone濃度の変化に及ぼす影響について検討した。その結果、エストロゲンは、精神性ストレス時に血漿レニン活性を抑制し、AngiotensinIIを減少させることによって、昇圧反応を抑制することが示唆された。なお、エストロゲンは腸間膜血管におけるAngiotensin変換酵素遺伝子発現には影響を与えなかった。②慢性ストレスによる循環調節機構への影響とエストロゲンの関与:上記と同様に作成した2群のラットで間欠的低酸素ストレスによる昇圧反応をエストロゲン補充が抑制した。これは、エストロゲンが腸間膜動脈の一酸化窒素合成酵素を増やし、一酸化窒素による血管拡張性を増強したことが一因と考えられた。2. 卵巣摘出ラットへの葛蔓イソフラボン慢性経口投与による精神性ストレス反応への影響: 葛蔓エタノール抽出物の慢性投与群と非投与群では、ケージ交換ストレスによる心拍数・血圧の上昇反応に差は見られなかった。3. 閉経後女性を対象とした精神性ストレス負荷時の血圧・血管反応における抗酸化ビタミンの効果: 閉経後女性に、酸化ストレス抑制効果のあるVitamin Cの経口投与・非投与下でカラ-ワ-ドテスト(CWT)による精神性ストレス負荷を行なった。Vitamin Cの投与前では、CWT負荷5分後に上腕動脈の内皮機能が低下する傾向が見られたが、Vitamin C投与後には低下は見られず、精神性ストレスによる血管機能低下を改善できた。
2: おおむね順調に進展している
研究はおおむね順調に進展しており、特にラットを用いた実験で、急性精神性ストレスによる循環反応におけるエストロゲンの抑制作用のメカニズムを明らかにできたため、論文作成中である。一方、慢性精神性ストレスにおける心血管系への影響とエストロゲンの作用を検討する実験では、当初予定した「他者同居ストレス」負荷を行ったが、ラットが適応しやすく、持続的な血圧上昇が見られなかった。しかし、慢性身体(+精神性)ストレスとして間欠的低酸素を負荷したところ血圧上昇を誘発することができたので、慢性ストレスモデルとして今後も継続して実験を行う予定である。また、卵巣摘出ラットへの葛蔓イソフラボン慢性経口投与はケージ交換ストレスによる心拍数・血圧の上昇反応を抑制しなかった。このため、女性を対象とした実験では、葛蔓イソフラボン投与は見送り、抗酸化ビタミンであるビタミンC を閉経後女性に内服してもらい、精神性ストレスによる循環反応や血管機能変化における閉経の影響とビタミンCのエストロゲン作用補完効果に関する実験を進めた。平成24年度は、科研費を使用して、HPLC用ポンプシステムを更新できたため、血漿カテコラミンの測定がスムーズに行えるようになった。また、テレメトリーシステムを用いたin vivo実験に使用する慢性血圧測定用送信器の電池更新を8台分行うことができたため、ラットの例数を効率よく増やすことができた。さらに、各種測定キットが購入できたため、エストロゲンの作用の詳細を検討できた。
平成23-24年度の結果を踏まえて、当初の計画の中で、成果を上げられる可能性のある実験を重点的に推進することによって、当初の研究目的を達成できると考えている。平成25年度もラットに対する急性ストレスとしてケージ交換ストレスを用い、エストロゲンの作用メカニズムについて腎交感神経-Renin-Angiotensin系を介した作用についてさらに検討を加える予定である。また、上記に述べたように、慢性ストレスを間欠的低酸素負荷で行ない、慢性ストレスによる血管機能障害におけるエストロゲンの作用のメカニズムを解明したいと考えている。加えて、抗酸化剤や抗酸化ビタミンの慢性投与により昇圧反応や血管機能がいかなる影響を受けるか検討する。女性を対象とした実験では抗酸化ビタミンのエストロゲン作用の補完効果に関する実験を継続するとともに、平成25年度は新たに身体ストレスとしてハンドグリップ試験を行ない、精神性ストレスと比較する。また、平成25年度は女性を対象とした調査研究を組み合わせる。すなわち、ストレス耐性のための食生活・運動習慣関連因子の調査を本学附属小学校の女子児童、女子大学生、中年女性に対して実施する。食事と運動に関する詳細な生活調査を行い、摂取エネルギー量・栄養バランスのみならず、抗酸化ビタミンやイソフラボンの摂取状況を調べる。さらに、ストレス耐性やストレス度の各種評価法を用いて主観的評価を行なう。抽出した被験者に、精神性ストレス負荷試験を実施し、内皮機能の変化を客観的なストレス耐性の指標とする。主観的および客観的ストレス耐性の評価結果と、食生活・運動習慣関連因子との関係を検討し、ストレス耐性に寄与するライフスタイルのあり方を栄養・運動の観点から検討する。
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CHEMISTRY & BIODIVERSITY
巻: 9 ページ: 1903-1908
10.1002/cbdv.201100426
http://www.nara-wu.ac.jp/life/health/morimoto/index.html