研究概要 |
本研究では,日本の近代化を支えた蚕糸製糸業を対象とし,特に繰糸技術と経営技術について焦点をあて,工学的な手法によりその特徴を抽出し分析することを研究目的としている.特に日本に当初導入されたイタリア式繰糸技術(前橋藩)とフランス式繰糸技術(富岡製糸場)を起点として,日本人による技術的展開を見せた諏訪式繰糸機を中心に検討を進めている.平成23年度は,諏訪式繰糸機の構造,および個々の部品を対象に調査を行った.具体的には,(1)繰糸糸道経路の幾何学的配置状態,(2)鼓車の分類と特徴,(3)繰糸鍋の画像データ採取と整理の3点である,繰糸糸道経路については,諏訪式繰糸機だけでなく,フランス式繰糸機,多条繰糸機,御法川式繰糸機,自動繰糸機(日産)についても調査し,データ採取を行った.その結果,以下のことが知られた.(1)糸道経路については,日本の繰糸技術がイタリア式のケンネル撚りによる独立した繰糸技術を本流としながら,ケンネルより掛けを構成する集緒器,鼓車等の幾何学的配置が大きく変遷しており,それぞれに作業性や高品質化,高効率化など異なる技術思想があることが明らかになった.(2)鼓車については,回転抵抗を低減するため材質や機構を工夫し,さらに構造を簡略化することでコスト低減を図っていることが知られた.(3)繰糸鍋については,作業性向上のため形状を工夫していることや蒸気・水の節約のため,形状や蒸気口に工夫がされていることが考察された. ただこれらは定性的な考察に止まっていることから,今後は繰糸機形状や幾何学的配置状態を定量的に計測・データ化することが必要である.そのため平成23年度後半では,これら繰糸機の構造をさらに詳細に把握するために,3次元スキャナを導入して繰糸機全体や部品類(鼓車,繰糸鍋等)の形状計測を進めるべく,設定や予備実験を行った.また糸道経路を繰糸時の張力変化を捉えるために,一粒繰りによる剥離張力測定用の実験装置試作を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で必要となる国内資料について,網羅的に調査・資料収集ができた.定性的な考察を行い,技術的課題についても整理を行うことができた.まだ予備的実験段階であり,論文投稿や学会発表には至っていないが,平成24年度はこれらの成果を集約して,論文および学会発表を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,3次元スキャナや3次元CADを用いて現存する繰糸機をデジタル化して取扱が可能にすることで,構造や形態の定量的な解析を進めることが重要と考えている.この方法は,他の繰糸機(海外の繰糸技術)を分析・評価するためにも重要な手法構築と考えている.またバーチャルミュージアムとしてWebサイト等を利用して多くの人々に,見てもらうためにも重要な取組と位置づけている.また張力計測技術により,糸道経路,および鼓車などの張力発生状況を把握し,技術の検証を進める予定である.繰糸鍋等については,形状の人間工学的考察を行う予定である.
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