研究課題/領域番号 |
23300316
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
森川 英明 信州大学, 繊維学部, 教授 (10230103)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生糸 / 繰糸 / 製糸 / 煮繭 / 技術史 |
研究概要 |
生糸繰糸工程は,繭を煮ることによってセリシンを溶解させ,ほぐれた繭糸を,複数本束ねて一本の糸(生糸)に巻き取って行くという非常にシンプルな工程をとる.しかしこの単純な工程も,繰糸機構や作業者の手続きの違いによって細かい品質上の差異が発現し,結果的に,①糸むら,②繭糸の抱合性,③生糸の力学的物性などの生糸品質,および④生産速度,⑤作業人員の配置,⑥歩留まりなどの生産効率・コストの問題に大きな差異をもたらす.中国起源の養蚕・製糸技術はさまざまな繰糸法に発展し,中央アジアや欧州でも異なる手法が開発されてきた.日本の製糸業は,イタリア式,およびフランス式の繰糸技術をベースに発展したが,時代が要求する生糸品質や歩留向上を目途に日本人独自の工夫と改良によって対応してきた.本研究では,諏訪式座繰り繰糸器を中心に繰糸技術に関わる歴史的経緯や先人の工夫を,工学的な手法によって解明することを中心に研究を進めた.一つは,イナズマ式や安東式などケンネルから工夫・改良した繰糸機糸道の幾何学的配置状態を解析し,実験装置を用いた繰糸実験により工程の状態を実証することによって,これらの方式が製品の特性(歩留まりか,品質か)に合わせたより掛け手法を選択していることが,明らかにすることができた. また繰糸機に使われている繰糸鍋の形状は,時代や地域・製作所によって異なり,いくつものパターンが存在する.近代製糸業の中心地であった諏訪・岡谷地域から集められた数多くの繰糸鍋を調査し,これら繰糸鍋の形状,特徴等を3D形状解析すると共に,多変量解析(クラスター分析)を利用して分析を行った.具体的には,①繰糸鍋の上方から撮影された写真をもとに,画像解析等により形態的特長(蒸気口や煮繭部,繰糸部などの位置・形状)を抽出し,②クラスター分析等により分類した.その結果,技術的な変遷や意図,その他の特性について解明することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の申請書時の研究計画では,生糸製糸技術の起源やさまざまな発展を経ている中国での手法・技術や,またシルクロードを通じて技術遷移の重要な経由地である中央アジア(ホータン:現・中華人民共和国新疆ウイグル自治区)などの調査を予定していた.しかし,中国と日本との政治情勢や新疆ウイグル自治区の治安悪化の問題等が発生し,渡航調査を断念せざるを得ない状況になり,研究費の繰り越し申請を行い,時期を待つこととした.
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今後の研究の推進方策 |
(本研究課題の期間は終了するが)群馬県の富岡製糸場が,平成26年6月第38回世界遺産委員会においてUNESCO世界遺産に正式登録される見通しが出たことなどから,日本の近代化を産業面で支えた蚕糸・製糸業に対する国内外の人々の関心が高まっている.今後,本研究は,富岡製糸場が輸入・導入したフランス式繰糸技術と,実際的に日本の製糸産業を支えた諏訪・岡谷地域において日本人技術者が改良・工夫して構築した諏訪式繰糸技術の差異を比較検証することが重要と考えており,関係機関とも協働して研究を進めたいと考えている.特にフランス式繰糸器の特徴である「共撚り掛け」と諏訪式繰糸器の「ケンネル式撚り掛け」は,製造される生糸の品質や歩留まり,生産性等にさまざまな差異をもたらすと考えられ,なぜフランス式繰糸技術でなくイタリア式のケンネルを基盤とした改良型ケンネル式繰糸技術を最終的に導入したのかについての検証は,技術史的にも重要と考えている.
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