研究概要 |
平成23年度は本研究の1年目にあたる.スズ同位体比測定法の基礎的研究を主に行い,日本産,中国産を初めとするスズ石の同位体分析と,中国産青銅器試料を数点分析しta. まず,スズの主要な鉱石であるスズ石の分解法を確立した.この鉱物は通常使用される酸分解法では分解できず研究の障壁となってきたが,ヨウ化水素酸を加圧ボンベ内で用いることにより,スズ石を分解する方法を確立した.次に,スズ石や青銅器試料の分解溶液からスズのみを単離/精製する必要があるが,ここでは溶媒抽出クロマトグラフィーであるアイクロム社のTRUレジンが有効であることが分かった.この樹脂の使用により定量的なスズの回収が可能であることと,青銅器の主要成分の銅などとの効果的な分離が可能であることが分かった.しかし,TRU樹脂を用いた精製作業を行うと,分離前と同位体比が僅かながら変化する問題が残っている.この変化は樹脂から溶け出す有機物により回収した溶液の粘性が変化するためと推測しているが,今後の検討課題である.ただし,精製による同位体比のシフトには再現性があることも分かり,精製後の溶液でスズ同位体比を測定した後に補正をほどこすことにより,もとの試料の同位体比が求められることも明らかになった. 開発した方法を用いて中国,日本産など十数個のスズ石試料を分析した.スズ石には小さいながら同位体比の不均質性が見られた.また,中国産青銅器試料も五試料程度分析した.こちらは鉱石精製のさいのクズ石以外は比較的同位体比は均質である結果を示した.両者を比較すると,スズ鉱石の同位体の不均質性がより大きい.今後,ダブルスパイク法を導入して,試料精製時の同位体比の変化の影響をより低減する方法を検討し,これまでの結果を再検討するとともに,新しい試料も分析する.
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