薄くて強靱で、保存性も高い楮紙は世界中の紙文化財の保存修理になくてはならない資材となっている。 よって、より安心な高品質の楮紙を世界に送り出すことは、我が国の使命である。しかし、市販の楮紙の品質には大きなばらつきがあり、その耐久性や保存性にも大きな違いがある。本研究では、材料の生産者・修復家・材料研究者の3者が共同することで、より保存性が高く、機械的強度に優れた楮紙はどのように生産すれば良いかを明らかにすることを目的とした。 ソーダ灰を用いた煮熟について、弱い煮熟では、紙は黄色味を帯び変色し易く、強い煮熟では紙の初期強度が低下した。ソーダ灰煮熟を行った紙は、通常のドウサに対して炭酸カルシウム入りの紙と同等の酸への耐性を示した。以上の結果から、普通の煮熟で漉かれた薄美濃紙は、色、強度ともに程良い具合で漉かれた紙である事に加え、酸への耐性も十分に持つ最もバランスの取れた紙であると言える。 地合の光学的な判断で初心者(N(B))の紙は明らかに地合いが悪く、熟練者(古田)は明らかに良い。繊維が短い場合(N(先))は非常に地合が良くなる。漉き順は、繊維の追加がなければ後になるほど地合がよくなったが、初期にはろ過効果により長繊維が紙に多く含まれ、後になるほど単繊維が増えることによる。 染色や裏打ちを行った時に古田製の紙はどの条件下でも、驚くほど扱い易い。その他の紙に関しては、灰汁媒染のものは、灰汁に付けると同時に紙の生が無くなり、くたくたになるなどの問題があった。
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