研究課題/領域番号 |
23300328
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
木川 りか 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 室長 (40261119)
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研究分担者 |
高鳥 浩介 東京農業大学, 農学部, 教授 (50270624)
久米田 裕子 大阪府立公衆衛生研究所, その他部局等, その他 (10250317)
犬塚 将英 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 主任研究員 (00392548)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 文化財 / 保存科学 / カビ / 浮遊菌 / 被災文化財 |
研究概要 |
文化財の生物被害のうち、カビによる被害は高松塚古墳壁画のカビによる劣化の問題を契機に非常に深刻な課題として認識されている。わが国の文化財は絵画、工芸品など大変に繊細なものが多いが、カビによる被害はその美観を損ね、物理的、化学的な劣化をも促進することからきわめて重要な問題であり、その予防と制御が望まれる。本研究では、文化財の展示収蔵施設におけるカビの被害の原因と問題点の実状を明確にした上で、カビの生理的性質に基づいたカビの制御、また被害の早期発見のための調査法、および施設の環境整備のあり方についても研究を行うことを目的としている。今年度は以下の項目について検討を行った。 ・被災文化財の保管・クリーニング作業施設の浮遊菌環境の現状把握:津波で被災した文書・紙資料の凍結乾燥、クリーニングを実施している奈良文化財研究所と協力して浮遊菌濃度、浮遊菌の種類、付着菌などについて作業施設の状況を調査した。濡れている時間が長かった紙資料では、資料、人体にリスクがあるスタキボトリス属のカビが広範にみられた。乾燥が進んだ状況では、ペニシリウム属のカビによる汚染が進んでいる場合もあった。 ・寺社等や古墳など、環境制御の難しい現場における対策の検討:温度を制御せず湿度だけを制御することを目的に、既存のデシカント式除湿システムを低温環境でも稼働できる基礎的なシステムを検討した。 ・パーティクルカウンター(PC)を用いた調査:文化財施設を想定した試験的閉鎖空間でPCと浮遊カビ数の相関性を経時的に調査検討した。エアーサンプラーによるカビ数との相関性は粒径2-5μmで優位に相関している傾向が見られた。 ・相対湿度とカビの発生の関係:昨年度より、木材、紙本、繊維(天然素材)を用い、65-100%範囲で相対湿度条件を変えてカビ発生の度合いを調査しており、現在結果のとりまとめをしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由)文化財展示収蔵施設の現状把握と有効なカビ調査法の検討については、被災文化財のクリーニングを実施している現場や模擬空間などでさらなる検討を実施することができた。また、被災文化財で被害を及ぼす微生物についても、より詳細な知見を得ることができ、対策とあわせて検討をすすめることができた。相対湿度とカビの発生の関係についても、昨年度に加え、新たなデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
東日本大震災で被災した文化財を保管する現場では、カビの発生がないかどうかの監視やモニタリングがひきつづき課題となっている。本研究においては、通常の施設に加え、これら被災文化財を保管する施設に向けても、取扱いや管理上で注意すべき点について、よりわかりやすいフレームを提供していきたい。また、空調がない施設においてカビの発生を防止するために、文化財を保管する現場のセキュリティや安全性にも留意しながら、かつ、エネルギーコストを考慮しつつ、どのような湿度管理のシステムが望ましいのか、ひきつづき検討が必要であると考えている。
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