博物館資料の非常に高精細な画像を適用した展示や資料の調査研究のための画像閲覧において、重要な手段となる資料間の比較表示に関し、これまでの研究で実現してきた比較対象をさらに拡大することを目的に、最終年度として、残された課題である横長の紙背文書-具体的には正倉院文書-の表裏の比較表示について検討を進めた。当初計画した配列画像による表裏の比較を実施したところ、適切とは言えない動作が見られたため、一巻毎の比較表示に立ち戻り詳細な検討をおこなった。 (1) 横長の紙背文書の表裏の比較において、原資料のたわみに起因して表裏の画像にズレが生じ、表示誤差となる。これを補正するための対応点を、文書の上辺と下辺に対で取る必要があることを見出した。さらに、文書の縦方向の位置で誤差が異なること、表を基準にした裏の誤差と裏を基準にした表の誤差が異なること、並びに、対応点対を追加すると誤差が増えることがあるとの複雑な振舞をすることが明らかとなった。これらを勘案して評価を行い、対応点を7対取れば8割の資料の最大表示誤差を5%以下にできることを明らかにした。 (2) 透過光と通常の反射光による文書画像の比較において、両画像に撮影時の微妙な角度の差があることから、透過度を替えた重畳比較より、普通の比較表示が適していることを確認した。 (3) 正倉院文書を元あった並びに仮想的に再構成し、表裏を比較表示するための前段階として必要な料紙と繋紙の領域の切り分けを、色相に基づいて行う方法について、料紙に対応する赤のピークと繋紙に対応する蒼のピークの値から閾値を動的に定める方法が固定の方法より切り分けの精度を高められることを明らかにした。以上の成果を、学会の大会および研究会において発表した。
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