研究実績の概要 |
本邦国土の70%を占める山岳地域は、水資源の涵養域として重要な役割を果たしている。山地流域の水資源を適切に評価し持続的に管理・利用するためには、その量のみならず滞留時間および涵養域等を明らかにする必要がある。しかしながら、我が国のとくに山岳域において、湧水・地下水の滞留時間、およびその量的動態を水文プロセスとの関連で明らかにした研究は、従来きわめて少ない。本研究では、山梨県を中心とした本邦中央山岳域の源流域湧水を対象とし、フロン等のトレーサーを用い、その平均滞留時間を求めるとともに、水収支モデルにより、当該湧水の集水域における山体地下水貯留量を求め、その動態が地下水の水文プロセスからどのように説明されるかを検討した。 山梨県北杜市・韮崎市・南アルプス市・富士川町周辺を、南東方向に向かって流れる、富士川水系釜無川流域の右岸側を対象地域とし、釜無川支流の武智川から曙川に至る古生層、花崗岩、第三紀層からなる、地形的集水面積が約2.5 haから65.7 haの湧水を対象とした。これまでに計7回、湧水ならびに渓流・河川水で実施した採水、流量観測等のデータをもとに、フロン、同位体等の分析結果の解析、モデル化等を行った。とくに、湧水におけるCFCs濃度により、平均滞留時間を推定するとともに、各湧水における基底流時の流量から対象地下水の平均涵養量を求め、定常状態の仮定の下、平均滞留時間に平均涵養量を乗ずることにより、各湧水の水文学的集水域における山体地下水貯留量を推定した。 湧水の滞留時間は、10~60年程度、また山体地下水貯留量は10,000~10,000,000立方メートルと推定され、古生層、第三紀層、花崗岩の順に貯留量が少ない傾向が示された。 すなわち、花崗岩地域においては、時空間的に水文プロセスが顕著に変動するため、湧水の滞留時間も時空間的に大きく変動するものと考察された。
|