研究概要 |
本研究は,大地震が多発する日本列島において,現成および離水した過去の潮間帯波食地形のマッピングを通じて岩石海岸地形のカタログ作成を行い,それに基づき沖合に想定される海域活断層に関連付けながら沿岸域の地震発生危険度について変動地形学的・古地震学的評価を大局的に行おうとするものである。 平成23年度は,日本海側(北海道~能登半島),房総半島,紀伊半島の岩石海岸を中心にして,国土地理院発行縮尺1/25,000地形図および1970年代国土地理院撮影の縮尺1/10,000カラー空中写真の地形判読によって,現成・離水潮間帯波食地形の抽出・マッピングを行い岩石海岸カタログを作成するともに,離水年代試料の採取・地形断面測量を行った(研究分担者および連携研究者で分担対応)。その成果をまとめると以下の通りである。 1)函館湾西岸や松前半島沿岸には完新世離水海岸地形が2つのレベル(7mと4m)に存在し,現世波食棚の幅は50mを超える。次期地震隆起の可能性が大きい地域と判定される。 2)西津軽海岸では完新世離水海岸地形・更新世海成段丘の旧汀線高度は少なくとも5つの断層セグメントの活動に関連した波状変位と不連続を示す。現世波食棚の幅が100mを超える艫作半島沖合に想定される海底活断層の運動による海岸隆起型の大地震が近いことが推定される。 3)房総半島南部では,元禄型地震による大隆起離水海岸地形が連続せず,離水海岸地形の数のみならず,同時代の旧汀線高度にも大きな違いがあり,対比されないレベルが複数あることがわかった。これらは隆起の中心を内房と外房にもつ異なるタイプの大地震が発生してきたことを示しており,相模トラフ沿いの海溝型地震の発生過程や再来間隔を再検討する必要を指摘することができた。 とくに日本海側では直接的な離水年代試料に乏しいことが改めて判明し,被覆層(腐植層ほか)のハンドコアリングなどを通じて丁寧なサンプリングが必要であることがわかった。また,陸側からアクセスの悪い海岸では,船を用いた海側からの接岸を行い調査する課題も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地調査において,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震,その後の余震活動による影響により,特に夏期のフィールド調査においては制約を強いられることが多々あった。空中写真の判読によるマッピングは室内作業であるため,広範囲にわたり進行している。
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今後の研究の推進方策 |
海岸部での野外調査は津波災害の直撃を受けやすい場所でもあるので,沖合海底下での地震情報に注意しながら,立ち後れていた離水海岸地形の離水年代(古地震の発生した時期)を特定するために必要な年代試料の採取に努める。また,アクセスの悪い海岸部では,ボート類の設備を調達して,重要な箇所に関してデータの欠落がないように配慮する。
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