研究課題/領域番号 |
23300340
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
森永 由紀 明治大学, 商学部, 教授 (20200438)
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研究分担者 |
高槻 成紀 麻布大学, 獣医学部, 教授 (00124595)
尾崎 孝宏 鹿児島大学, 法文学部, 准教授 (00315392)
篠田 雅人 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 教授 (30211957)
立入 郁 独立行政法人海洋研究開発機構, その他部局等, 研究員 (30336185)
平野 聡 独立行政法人国際農林水産業研究センター, その他部局等, その他 (60344842)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 遊牧知 / 国際研究者交流 / モンゴル / 馬乳酒 / 気象観測 / ゾド(寒雪害) / 早期警戒システム / 植生観測 |
研究概要 |
本研究では、モンゴルの牧民が地域で過去から引き継いできた生活上の様々な知識体系を「遊牧知」と定義し、気候学的・生態学的側面からそれを検証することで気象災害を緩和したり、気象情報を暮らしに役立てることをめざす。3年目にあたる平成25年度は、主に以下のことを行った。 1)ボルガン県における冬営地の選択に関する遊牧知の検証:冬営地と夏営地の気温逆転層下部の温度構造を測定するために、係留気球観測を1月に実施した。夏営地では高度65mまでに6℃以上昇温するほどの比較的強い気温の鉛直傾度があるのに対して、冬営地では65mまでに1℃強の昇温しかなく、鉛直傾度は小さい。夏営地は低温の空気が滞留する冷気湖の底の特徴を有する一方で、冬営地は冷気湖の上にあると考えられる。 2)モンゴル全土のゾドのアセスメントの方法の開発:モンゴル国気象水文環境研究所の農業気象課長とともに、西部および中部の7県の中央および郡の気象台を訪問し、ゾドの被害や対応に関する聞き取り調査を実施した。牧養力データの活用方法が自治体によって大きく異なることや、ゾド対応における気象庁・農牧省・自治体の連携の重要性が明らかになった。 3)馬乳酒の遊牧知の検証を実施:馬乳酒の名産地であるモンゴル国北部の森林草原地帯のボルガン県モゴッド郡のオルホン川の近傍にて、名人といわれる馬乳酒製造者N氏のゲルに滞在し、その方法を記録し、観測を行った(GPSによる馬の移動観察、体重測定、牧地の植生調査、ゲル近傍および内部の気象観測、馬乳酒の成分調査、発酵方法の聞き取り、製造過程の撮影など)。製造期間は6月15日~9月22日までで、気温が+の時期と一致した。ゲルは1度約3km南西の川近くに移動した。馬はオルホン川の近傍約10km四方で放牧され、季節によって行動範囲は変わった。25頭の母馬から0~8回/日搾乳し、5139lの馬乳酒が作られた。うち250lは夏祭りで販売、1tは冬季用に保管された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
達成度について、 ①ボルガンにおける冬営地の選択に関する遊牧知の検証に関しては、観測がおおむね順調にすすみ、論文の投稿準備に入った。 ②モンゴル全土のゾドのアセスメントに関しては、研究協力者である気象水文環境研究所の農業気象課長と約10日間の調査旅行を実施したため、相互理解が格段に進んだ。 ③馬乳酒の遊牧知の検証については、カウンターバートである製造者N氏との観測に関する合意形成がむずかしく、計画どおり観測が実施できない部分もあったが(伝統的容器である革袋と新しいプラスティック容器の使用による馬乳酒成分の差異の観察など)、全体としては、約4か月間の現地調査から、多くのデータを得ることができた。 ④牧畜気象観測体制改善のための測器は、一部不具合が生じたため、対応中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、上記の ①~④について述べる。①ボルガンにおける冬営地の選択に関する遊牧知の検証では、冬営地の立地が斜面温暖帯に立地していると考えられるので、人工衛星データの解析で検証したい。②モンゴル全土のゾドのアセスメントの方法の開発では、樹形モデルを利用したアセスメントを試みる。③馬乳酒の遊牧知の検証に関しては、引き続き馬乳酒生産の名人の技術を2014年6月から9月まで、一夏にわたってボルガン県のモゴッド郡にて、気象観測、馬の行動観察、体重測定、糞分析、植生調査、馬乳酒の成分調査、住民の栄養調査、馬乳酒をめぐる文化的行事の調査などを実施する。④牧畜気象観測体制改善のための測器の開発では、故障した測器のメンテおよび回収したデータの解析をすすめる。 さらに、年度内に、2012年10月の日本地理学会秋季大会のシンポジウム「ゾドと遊牧知」を発展させたかたちの研究発表会を開催する。
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