研究課題
正常細胞にDNAダメージなど強いストレスが加わると、細胞に本来備わった癌抑制機構として、不可逆的細胞増殖停止である「細胞老化」が誘導される。しかし細胞老化を起こすと細胞が死滅せず長期間生存し続けることから、細胞老化は、初期には癌抑制機構として働くが、長期的には生体にとってなんらかの慢性的な不利益を及ぼす可能性があると考えられる。最近、細胞老化をおこすと、様々な炎症性サイトカインが大量に分泌されることが明らかになった。本研究においては、細胞老化による炎症性サイトカイン分泌の分子機構を明らかにするため、まずはTLRシグナルとオートファジー特異的に分解されるp62タンパク、ミトコンドリア障害に着目し実験を行った。TLRシグナル炎症シグナルの誘導に、リガンドの違いによって様々なToll様レセプターシグナルが関与するが、ヒト正常線維芽細胞において細胞老化を誘導する際に、TLR4をノックダウンしたところ、炎症性サイトカィンの発現が著しく低下することが明らかになった。つまりヒト正常線維芽細胞においては、TLR4を介するシグナルが細胞老化に伴う炎症性サイトカインの発現に関与していると考えられた。p62タンパクヒト正常線維芽細胞に細胞老化を誘導したところP62の発現上昇を認めた。その際P62の発現をノックダウンすると、炎症性サイトカインの発現が著しく低下することが明らかになった。このことから、p62の高発現も細胞老化に伴う炎症性サイトカインの発現に関与していると考えられた。ミトコンドリア障害ヒト正常線維芽細胞の細胞老化においてミトコンドリア障害は認められ、ROSの産生も上昇するが、培養上清において、ミトコンドリアDNAの放出はコントロールと比較してあまり顕著ではなかった。このことからミトコンドリアDNAを介する炎症シグナルの影響は小さい可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
上記の結果から、細胞老化における炎症性サイトカインの発現上昇と関係している経路として、TLR4シグナル、p62タンパクを介する経路が候補として考えられた。今後の実験はこれらの経路に絞って行う。今年度、研究の方向性が絞られた点については、順調に進展したと評価できる。
培養ヒト正常線維芽細胞において細胞老化を誘導する際に発現する炎症性サイトカインの発現はTLR4を介する可能性が示唆された。また、我々はマウス生体において、高脂肪食摂取にともなう肝がん部に存在する線維芽細胞で、細胞老化にともなって炎症性サイトカインが発現することを見出している。そこで、TLR4KOマウスを用いて、同様の実験を行い炎症性サイトカイン発現が抑制されるのか、またそれに伴い肝腫瘍形成がどのように変化するのかについて検討する。TLR4ノックアウトマウスは購入する。また、同様にp62ノックアウトマウスを用いて検討を行う予定であるが、p62ノックアウトマウスは開発者から供与してもらわなければならないため、申し出る予定である。
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Molecular Cell
巻: Vol 45 ページ: 123-131
Experimental Dermatology
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実験医学
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