研究課題/領域番号 |
23300343
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
大谷 直子 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がん生物部, 主任研究員 (50275195)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 癌微小環境 / 細胞老化 |
研究概要 |
正常細胞にDNAダメージなど発癌の危険性のあるストレスが加わると、不可逆的細胞増殖停止である細胞老化が誘導される。細胞老化はアポトーシスとならぶ重要な発癌防御機構であるが、アポトーシスとは異なり細胞老化をおこしても細胞が死滅せず長期間生存し続ける。最近、細胞老化をおこすと、様々な炎症性サイトカインが大量に分泌されることが明らかになった。本研究では、細胞老化の誘導・維持によって引き起こされる持続的サイトカイン分泌の分子機構と、その癌微小環境形成に及ぼす影響を解析している。 昨年度までの研究で、培養ヒト正常線維芽細胞において、細胞老化が誘導される際に炎症性サイトカインの発現は、TLR4を介するシグナルによって誘導される可能性が示唆された。そこで、次に個体においてもTLR4を介するシグナルによって細胞老化による炎症性サイトカイン分泌が制御され、発がんに促進的な微小環境を形成しているのかどうか調べた。 我々はマウスを用いた化学発癌による肝癌誘発実験で、30週齢の時点では普通食摂取群に比して高脂肪食摂取群では非常に高頻度に肝がんが発生し、さらに肝がん部に存在する線維芽細胞において、細胞老化が誘導され、それにともなって炎症性サイトカインが発現することを見出している。そこでこの系を利用して、H24年度はこのマウスの肝癌誘発実験系で細胞老化を起こした肝がん部の線維芽細胞における炎症性サイトカイン発現もTLR4を介しているかどうか調べるため、TLR4KOマウスを用いて、同様の肝癌誘発実験を行った。しかし、予想に反してTLR4KOマウスで発生する肝腫瘍数は野生型と比べて減少することはなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の計画ではTLR4KOマウスとTLR2KOマウスを用いて実験を行う予定であった。しかし、この肝がん誘発実験は少なくとも30週間を要するため、TLR4KOマウスを用いた実験は終了したが、TLR2KOマウスを用いた実験は年度をまたいで継続中であり、来年度にかけて実験を終了する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、高脂肪食を負荷する肝癌誘発実験では、培養線維芽細胞を用いた予備実験の結果とは異なる結果が得られた。この理由として、今回行った個体の実験では、培養環境では存在しない高脂肪食に伴う著明な脂質の蓄積を伴っていることが培養系との違いとして考えられた。そこで、次年度は、脂質やリポタンパクをリガンドとして認識するTLRに着目し、TLR2(継続中),TLR1等のKOマウスを用いて解析する。 また、昨年度はp62にも着目する計画であったが、p62を介する炎症はTLRとは別の経路と考えられるので、来年度はまずはTLRシグナルに着目した炎症シグナル経路の関与を明らかにすることを優先する。
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