研究概要 |
ヒト手術検体より分離培養したヒト正常膵管細胞に変異CDK4,Cyclin D1,TERTをレンチウイルスベクターで導入することにより正常2倍体のヒト膵管上皮細胞株の樹立に成功した。この細胞にp53-shRNA,MYCと活性型RAsを導入することにより膵がんiCSCを誘導することに成功した。p53-shRNA,MYc,RASのいずれを欠いても造腫瘍性は著しく低下はたは消失した。次いでHPV16のE6,E7,MYC,活性型RASの4因子をテトラサイクリン誘導系にて発現するレンチウイルスベクターを2例の初代ヒト正常膵管培養細胞に導入した。この細胞をヌードマウス皮下に移植すると4因子の発現に依存して1ヶ月以内に腺がんの病理組織像を示す腫瘍を形成した。腫瘍を形成した後4因子の発現を止めると腫瘍の増殖は止まった。約3週間後に残留腫瘍を解析すると、大部分は単層円柱上皮組織からなる腺腔構造を取っていた。一方、移植後4因子の発現を止めていたマウスに約4週後から4因子の発現を誘導すると516箇所から腫瘍が急速に増大してきた。腫瘍の組織像を調べると大部分は未分化がんの像を示したが、一部に腺管構造を伴う腺がんの病理組織像を示した。このように4因子の発現のON/OFFによりほぼ正常の組織から腺がんへ少なくとも部分的には可逆的に移行する可能なモデルが得られた。今回はiCSC誘導に重要な4因子全てをON/OFFしたが、活性型RASやMYCなど一部の遺伝子発現のみを制御することでPanIN-腺がんへの移行などが観察できるかを検討することができる。一方、同ベクターを用いて実験動物による膵がんと大腸がんのde novo発がんモデルの作成を計画しているが、膵管上皮細胞に選択的に発現できるプロモータが得られなかったため、進行がやや遅れている。
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