研究概要 |
ヒト手術検体11例より分離培養したヒト正常膵管細胞のうち9例で初期培養に成功し、4例では変異CDK4, Cyclin D1, TERTをレンチウイルスベクターで導入することにより正常2倍体のヒト膵管上皮細胞株の樹立に成功した。これらの不死化細胞にp53-shRNA, MYCと活性型RASを導入することにより膵がんiCSCを誘導することに成功した。次いでHPV16のE6,E7, MYC, 活性型RASの4因子をテトラサイクリン誘導系(tetOff)にて発現するレンチウイルスベクターを初代ヒト正常膵管培養細胞に導入した。この細胞をヌードマウス皮下に移植すると4因子の発現に依存して1ヶ月以内に腺がんの病理組織像を示す腫瘍を形成した。腫瘍を形成した後ドキシサイクリン(DOX)投与により4因子の発現を止めると腫瘍の退縮が見られた。移植後4因子の発現を止めていたマウスに約4週後から4因子の発現を再び誘導すると腫瘍の増大が見られた。異なる時期に腫瘍ならびに遺残組織の組織像を調べると腫瘍は腺管構造を伴う腺がんの病理組織像を示し、退縮後の組織は粘液産生細胞を含む単層腺上皮よりなる腺管上皮組織像を示した。DOX投与後10日後にはほぼ単層腺上皮組織を示した。腺管内には死細胞が高頻度に見られたが、Tunnel法ではアポトーシスを確認するには至らなかった。また、腫瘍再増殖初期にはPanIN様組織像も見られた。このように4因子の発現のON/OFFによりほぼ正常の組織からPanINを経て腺がんへ移行可能なモデルが得られた。一方、同ベクターを用いて実験動物による膵がんと大腸がんのde novo発がんモデルの作成を計画しているが、膵管上皮細胞へのウイルス接種技術開発や膵管上皮細胞選択的に発現できるプロモータの選択を進めている。
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