転写因子snailはE-cadherinの発現を負に制御しており、snail自身はリン酸化と引き続く分解によって発現がコントロールされている。我々はDYRK2がsnailをプライミングリン酸化し、ユビキチン化による分解を通して、その標的分子E-cadherinの発現を制御していることを見出した。snailのプライミングリン酸化状態をモニターし、ユビキチン化やE-cadherin発現との相関性を検証した。またE-cadherinの発現は上皮間葉転換(EMT)を制御していることから、DYRK2によるE-cadherin発現制御がEMTにどのように影響を与えているかについて、in vitroによるinvasion assayや、in vivoによるxenograftを用いた遠隔転移モデルなどにより明らかにした。 我々はこれまでに、DNA損傷によってDYRK2がp53のSer46をリン酸化しアポトーシスを誘導することを明らかにしてきた。しかし、p53がリン酸化を受けた後どのようなメカニズムで細胞死が惹起されるかについては不明であった。その詳細な分子機構を解明するために、Ser46のリン酸化で誘導される分子を網羅的発現解析によって同定したところ、その一つとしてアンフィレグリン(AREG)と呼ばれるサイトカイン分子を見出した。AREGはSer46リン酸化依存的に誘導され、細胞核に蓄積してくることが判明した。次にAREGがどのように細胞死誘導に寄与しているかを調べるために、AREGと会合する分子を質量分析計によって探索したところ、DDX5と呼ばれる分子を同定した。DDX5はRNAヘリカーゼの一つであり、Droshaと呼ばれる酵素と協調してmiRNAのプロセシングに関与している。そこにAREGが会合することでプロセシングが促進されることを見出した。この結果、抗アポトーシス分子であるBcl-2の発現を抑制するmiRNAが活性化することでアポトーシスを誘導していることが明らかとなった。
|