研究課題
近年炎症ががんの発症と進展に重要な役割を果し、さらに炎症ががんの血管新生の誘導に深く関与することが注目されている。我々は炎症性サイトカインであるインターロイキン-1(IL-1)とその受容体(IL-1R)に注目して新規がん血管新生誘導のメカニズムを明らかにし、炎症から見た血管新生を標的とするがん治療創薬の基盤研究を進めた。そこで本年度の研究により以下のことを明らかにした。1.ヒト肺癌細胞より樹立した低転移細胞株と高転移株(リンパ節転移や肺転移転移)間で遺伝子発現やタンパク質発現を対比したところ、IL-1をはじめとしてCXCケモカインであるCXCL1/Groα,CXCL5/ENA78,CXCL8/IL-8,IL-6,PGE2などの発現亢進がみられた。細胞内シグナルにおいては、炎症性シグナルであるCOX-2やNF-κBシグナルの亢進を観察した。2.in vivoの系で高転移株腫瘍では腫瘍増大や腫瘍内血管とリンパ管新生密度、マクロファージ浸潤数が低転移株腫瘍に比べ有意に増加していた。また腫瘍内における間質細胞由来VEGF-AやVEGF-Cの発現上昇が観察された。さらにIL-lreseptor antagonistであるIL-Ra処理により高転移株の腫瘍増殖とリンパ節転移、腫瘍内血管・リンパ管密度、マクロファージ浸潤数等が抑制された。さらにがん間質細胞由来のVEGFA、VEGF-Cの減少も観察された。
2: おおむね順調に進展している
現在高転移性ヒト肺癌細胞株を用い新たな血管・リンパ管新生に関与し、肺やリンパ節転移への転移を制御する因子としてIL-1シグナルを示した。さらにはIL-1レセプターアンタゴニストの投与により腫瘍の増大やリンパ飾転移の抑制を観察した。このことよりIL-1シグナルは転移制御における有用な分子標的であることを示した。
今後はリンパ節転移や肺転移にどのような機序によりIL-1シグナルが関与しているかを明らかにしていく。現在腫瘍内におけるがん間質細胞由来の血管・リンパ管新生関連因子の発現の亢進がみられることよりがん細胞由来のIL-1ががん間質細胞に作用することにより血管・リンパ管新生関連因子の発現を亢進しているのではないかと考えている。またIL-1の下流シグナル因子(例:COX-2やNF-κBなど)についても肺癌細胞や他のがん細胞を用いて転移制御の分子標的となるか否かについても検討を行いたい。
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