研究課題
近年炎症ががんの発症と進展に重要な役割を果たし、さらに炎症ががんの血管新生やリンパ管新生の誘導に深く関与することが注目されている。我々は炎症性サイトカインであるインターロイキン-1(IL-1)とその受容体(IL-1R)に注目して新規がん血管・リンパ管新生誘導のメカニズムを明らかにし、炎症から見た血管・リンパ管新生と転移を標的とするがん治療創薬の基盤研究を進めていく。昨年度までに、同じヒト肺癌細胞株より樹立された低転移株と比較して高転移株では、①IL-1αの発現亢進 ②皮下移植腫瘍での腫瘍体積や血管・リンパ管密度、マクロファージの浸潤数の増加 ③間質細胞由来の血管・リンパ管新生因子であるVEGF-AやVEGF-Cの亢進が観察され、IL-1Rアンタゴニスト(IL-1Ra)処理によりこれらが著明に抑制されることを観察した。そこで本年度の研究により以下のことを明らかにした。1. 間質細胞由来のVEGF-AやVEGF-Cがどの細胞により産生されているかを検討するため、抗ヒト及びマウスVEGF-A及びVEGF-C抗体を用いて腫瘍組織切片の免疫染色を行ったところ、高転移株腫瘍内におけるVEGF-A及びVEGF-Cはマクロファージ特異的なマーカーであるF4/80と共染された。2. 磁気ビーズを用いて腫瘍内よりマクロファージを精製し、腫瘍内マクロファージにおけるVEGF-A及びVEGF-Cの発現をqRT-PCR法により比較したところ、高転移株腫瘍由来のマクロファージでこれらの因子の発現の増加が観察された。以上の結果より高転移株腫瘍内における血管・リンパ管新生因子はマクロファージにより産生されており、このマクロファージとIL-1/IL-1Rシグナルの活性化が高転移株腫瘍における血管・リンパ管新生及びリンパ節転移の亢進に関与していることが示唆された。
3: やや遅れている
高転移肺癌細胞株を用いた研究により、IL-1/IL-1Rシグナルの血管・リンパ管新生及びリンパ節転移への関与と、マクロファージの重要性を示した。しかしNDRG1遺伝子欠損マウスを用いてIL-1誘導の血管新生における宿主NDRG1の役割の検討を行う予定であったが、NDRG1遺伝子欠損マウスの確保が困難であったため行うことができなかった。
今後はIL-1/IL-1Rを介した炎症ストレスにより活性化された腫瘍内マクロファージの性質を同定していく。さらに高転移株との共培養時にIL-1Raの投薬がマクロファージのVEGF-A及びVEGF-Cの産生や性質にどのように影響するのかを検討する。またNDRG1遺伝子欠損マウスを用いて、これらの結果より得られたマクロファージの性質やVEGF-A及びVEGF-Cの産生能にNDRG1が関与するか否かを検討し、マクロファージにおけるNDRG1の役割を検討する。
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