研究課題/領域番号 |
23300351
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
宮崎 香 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 教授 (70112068)
|
キーワード | がんの浸潤 / 細胞接着 / 浮遊増殖 / EMT / 腹水 |
研究概要 |
基底膜から間質へ浸潤するがん細胞、および完全に接着能を失った浮遊性がん細胞に焦点をあてて、がんの悪性進展に伴う細胞接着システムの異常の機構を調べた。(1)がんの基底膜浸潤において、ラミニン332(Lm332)の限定分解によるLm332のマトリックス(ECM)形成能の消失、接着能低下、および運動能亢進が明らかになった。一方基底膜を通過し、間質内に浸潤したがん細胞は上皮―間葉移行(EMT)を起こすことが知られている。本研究では3種の上皮性がん細胞にTGF-βでEMTを誘導し、ECM分子の変化や細胞形質の変化を調べた。EMTを誘導したがん細胞は、上皮基底膜の接着分子であるLm511の構成鎖であるLmα5鎖が減少する半面、Lmγ2鎖、Lmα4鎖、フィブロネクチンの産生が大きく促進された。また、EMT誘導がん細胞は間質型接着分子であるフィブロネクチンやI型コラーゲンに対する接着性が大きく上昇するとともに運動能も高めた。これらの結果から、EMTの誘導によって上皮性Lmの発現が減少する半面、間質型接着分子の産生やそれに対する接着能が上昇し、運動能も高めることが分かった。このような形質変化によってがん細胞は間質内浸潤が可能になると思われる。(2)浮遊性ヒト大腸がん細胞Colo201を特定の チロシンキナーゼ阻害剤で処理すると短時間で細胞は上皮様の接着形態を回復することが明らかになった。そこでこの阻害剤を用いてColo201細胞の浮遊化の機構を調べた。Colo201細胞の再接着誘導にはタンパク質合成は必要なく、またインテグリンなどの細胞接着装置も保持していることが判明した。接着関連細胞内シグナルの変化を調べた結果、阻害剤処理によってパキシリンのチロシンリン酸化が大きく亢進することから、この分子のリン酸化レベルが細胞接着を決定していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EMT誘導されたがん細胞が示す形質変化については十分な知見が得られたので、論文を準備中である。浮遊性がん細胞Colo201の浮遊化機構についてはパキシリン酸化レベルの異常が明らかになったが、その上流にあるシグナル伝達因子の異常についてはまだ明らかになっていない。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に、TGF-βなどの作用によりEMTを起こしたがん細胞が発現する細胞外マトリックス分子や細胞接着性の変化についてほぼ明確にすることができた。次年度はさらに悪性進展したがん細胞の浮遊化機構について、Colo201細胞を用いてシグナル伝達因子の異常を明確にする。候補分子は既に明らかになったので、siRNAを用いた実験により異常分子を同定する。
|