研究課題/領域番号 |
23300352
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
原 英二 公益財団法人がん研究会, がん研究所・がん生物部, 部長 (80263268)
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キーワード | 遺伝子 / 癌 / ゲノム / シグナル伝達 / 発現制御 |
研究概要 |
細胞老化はこれまで重要な発癌防御機構として働いていると考えられてきた。しかし、我々は細胞老化を起こすと、染色体不安定性が亢進し、悪性腫瘍細胞としての形質を獲得しやすくなることを見出した。つまり細胞老化は短期的には癌抑制機構として働くが、長期的には発癌を促進してしまう諸刃の剣として働いている可能性が考えられる。そこで、本研究では細胞老化が有する発癌促進作用の分子機構を解明することで、未だ不明な点が多い発癌メカニズムのより完全な理解と、細胞老化の発癌促進機構のみを阻害することで効果的な癌治療法の開発に貢献できる基礎的な知見を得ることを目的とした。本年度は先ず、老化細胞が染色体不安定性を引き起こす最大の原因と考えられる活性酸素種(ROS)レベルの上昇が起こる分子メカニズムの解明と、それによるDNMT1の発現低下との関係解明を試み、次の結果を得た。(1)細胞老化を起こすとp16^<INK4a>などのCDKインヒビターの発現によりRB蛋白質が活性化されて、E2F/DP転写因子の転写活性が抑制される。このため、Lamin B1やFoxM1などの転写因子の発現レベルが低下することでROSの産生を抑制する働きがあるMnSODの発現が低下することで細胞内のROSレベルが上昇することを見出した。(2)ROSレベルの上昇は転写因子であるAP1の活性低下を起こすためにDNMTI遺伝子の転写の抑制を引き起こす。また同時に、APC/C-Cdh1の活性化を介したDNMT1の蛋白分解も引き起こすためにDNMT1の発現レベルが著しく低下することでDNA損傷シグナルが活性化されて染色体不安定性が促進されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目標にしていた細胞老化におけるROS産生機構の中心部分を明らかにしたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Lamin B1やFoxM1の発現を調節することでROSの産生を抑制し、老化細胞における染色体不安定性を抑制できるかどうかについて検討を行う予定である。
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