研究課題
これまでの研究により、細胞老化を起こした細胞(老化細胞)では細胞内の活性酸素種(ROS)レベルが著しく上昇するために、DNA損傷が起こり、発癌に必要な遺伝子異常が起こりやすくなることを見出してきた。そこで本年度は、細胞老化が起こると何故ROSレベルが著しく上昇するのかにについて、その分子メカニズムの解明を試み、以下の研究結果を得た。(1) ホルモン投与によりp16を活性化できるヒト正常繊維芽細胞を樹立し、この細胞を用いて、ホルモン投与により簡単に細胞老化を誘導できることを確認した。さらにこの細胞を用いて、細胞老化の誘導に伴いROSレベルが上昇するメカニズムの解析を行い、細胞増殖シグナル伝達因子であるAKTと細胞周期制御因子として知られるE2Fの相互作用が重要な役割を果たしていることを見出した。(2) 更に細胞老化の誘導に伴い、AKTにより活性が変化する転写制御因子群を見出し、、それらの中にはROSの産生を抑制する転写因子(JFCR311)が含まれれていることを見出した。(3) 一方、細胞老化の誘導過程でp16によりE2Fの転写活性が著しく低下することが知られているが、増殖中の細胞においてはE2FがJFCR311と機能および構造が類似した別の転写因子(JFCR312)の発現を促進することでROSの産生を抑制していることを明らかにした。以上の研究結果から、細胞老化の誘導過程でAKTシグナルの活性化に伴うJFCR311の機能低下とE2Fの活性低下に伴うJFCR312の発現低下によりROSの産生を抑制する機能が破たんするために細胞内のROSレベルが著しく上昇するようになることが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
細胞老化に伴う発癌促進機構の重要な要素の一つと考えられるROSの産生メカニズムの一端を明らかにすることができたため。
これまで明らかにした細胞老化に伴うROS産生機構とそれに伴う染色体不安定性誘発機構について、(1) 先ずそれらの分子機構が培養細胞だけでなく、生体内でも起こっている現象かどうかについて、実験動物(病態モデルマウス)やヒトの臨床サンプルを用いた解析により明らかにしてゆく。(2)次にこれらの分子機構を調節する方法を開発するために、化合物ライブラリーやshRNAライブラリーを用いた解析を行い、細胞老化に伴うROSレベルの上昇を抑制する分子標的の探索を行う。また、もう一つの細胞老化に伴う発癌促進機構として考えられるSASP(Senescence associated secretory phenotype)のROS産生に及ぼす盈虚についても多角的に検討することで、細胞老化に伴う発癌促進機構の解明とその調節方法の開発を目指す。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件)
Cell Stem Cell
巻: 10 ページ: 759-770
Biochem. Biophysi. Res. Commun.
巻: 427 ページ: 285-292
10.1016/j.bbrc.2012.09.041.