研究課題/領域番号 |
23300359
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
土屋 直人 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (30322712)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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キーワード | 癌 / マイクロRNA / 細胞周期 / 発がんバリアー |
研究概要 |
miRNAの発現異常は、がん発生と密接に関連していることが明らかとなってきた。多くのmiRNAは、腫瘍組織において発現低下を示す傾向にある。一方で、miRNAの機能欠損は、細胞の分化異常を誘発することも分かってきた。これらを総合的に判断すると、miRNAシステムは、細胞分化に必須であり、細胞の分化異常が基本となるがん病態の発生においては、多くのmiRNA分子が、発がん抑制的に機能していることが推察される。本研究では、我々が単離したmiRNAの正常細胞における機能を解析し、当該miRNAが、制御する細胞内シグナルネットワークを同定し、発がんのバリアー機構を解明することを目的としている。 我々が同定したがん抑制的miRNAは、miR-22、miR-101、miR-34a、miR-532等がある。これらの中でもmiR-532は、強い細胞周期停止が誘導する。この分子機構を解析した結果、miR-532が細胞周期調整のキー分子であるサイクリンD1の制御因子であることが判明した。興味深いことに、miR-532を膵臓がん細胞株へ導入すると、部分的にではあるが、細胞周期のG0期に特徴的な遺伝子発現プロファイルを誘導できることが解った。正常2倍体ヒト繊維芽細胞であるTIG3を血清飢餓状態でG0期へと誘導すると、顕著にmiR-532の発現が上昇し、それと反比例する形で、サイクリンD1の発現低下が観察された。miR-532を阻害すると、TIG-3細胞のG1/G0期の細胞数が有意に減少することを見出した。一方、がん細胞株ではこのような現象は認められず、がん抑制的miRNAが、がん細胞で発現していたとしても、その機能が正常細胞とは異なり、細胞増殖停止には寄与していない可能性が考えられた(論文投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、マイクロRNAによる発がんバリアー機構の解析である。発がん過程では、さまざまなジェネティックおよびエピジェネティック変異が多段階的に蓄積することが知られている。マイクロRNAの発現も正常とがん組織では著しく異なる。マイクロRNAの機能異常が、がん病態誘発と深く関連していることは、疑いない事実であるが、多段階的なマイクロRNAの機能異常の蓄積と発がんとの関連を分子レベルで理解する必要がある。 我々が単離したがん抑制的マイクロRNA(miR-22、miR-101、miR-34a、miR-532)のがん細胞における機能を解析し、正常細胞の機能解析も付加することで、これらmiRNAの機能異常が発がんに与えるインパクトを明らかにすることが目的である。すでに、当初の計画に記述した、正常細胞における発現解析は終了しており、これらmiRNAが細胞周期に依存して、発現変動していることも見出している。特に、miR-532のように、細胞がG0期に進行する場合に、重要な役割を有することが示唆されることも見出している。がん細胞においては、miR-532の細胞周期依存的な機能が破綻している可能性も明らかにしていることから、マイクロRNAによる発がんバリアーの選択機構の破綻の一つは、細胞周期依存的ながん抑制的miRNAの発現・機能喪失が原因となる可能性を示唆している。 本研究課題の目標へと到達するために、遺伝学的に当該miRNAを破壊し、がん発生もしくは細胞の悪性転換を誘導することが必須である。この実験については、現在進行しているが、当初の予定より、若干進行が遅れている。その理由は、当該miRNAのノックダウンやノックアウトが、遺伝子構造より容易ではないことである。これらを踏まえても、課題の進捗状況・目標達成度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、がん抑制的miRNAであるmiR-101が制御する細胞内ネットワークを同定し、発がん抑制バリアーとしての役割を明らかにする。これまでに、miR-101の機能については、次のことを明らかにしている。miR-101を導入するとG2期細胞周期が誘導され、p53のリン酸化亢進とアポトーシス関連遺伝子の発現上昇が認められる。興味深いことに、miR-101を導入した細胞は、M期への移行は完全にブロックされ、G2期で停止した細胞は、アポトーシスへと向かうことが示唆された。また、miR-101の発現量は、細胞周期のG2期で顕著に減少していることが解った。さらに、miR-101の発現は、ある種のストレスにのみ応答して上昇することも明らかにした。これらの知見を踏まえて以下の解析を行う。 ①miR-101欠損細胞の樹立:miR-101遺伝子を、がん細胞及び不死化気管上皮細胞で遺伝学的に破壊し、miR-101欠損細胞株を樹立する。これら、細胞株を弱いストレスに持続暴露することで、細胞が形質転換するか否か解析する。 ② miR-101によって制御される細胞内ネットワークのキー分子の同定:miR-101の発現上昇、即ち、特定ストレスによって活性化される細胞内ネットワークを明らかにし、そのネットワーク構築のキー分子であり、miR-101によって発現制御を受ける遺伝子(分子)を同定する。これまでに、miR-101によってG2チェックポイントの活性化とmiR-101の標的遺伝子を複数同定している。これらの標的と細胞内ネットワークの関連を明かにする。 ③ 臨床検体におけるmiR-101、標的遺伝子の発現解析:miR-101の機能から類推されることは、前がん病変において、miR-101の発現は亢進しており、がんにおいては発現が低下していることである。
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