研究課題/領域番号 |
23300364
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉本 芳一 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (10179161)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | ABC輸送体 / ABCB1 / ABCG2 / ABCB5 / P-糖タンパク質 / BCRP / SNP |
研究概要 |
[研究1]Pim-1阻害薬のP-糖タンパク質(P-gp)の発現に対する影響について解析した。2種類のPim-1阻害薬は、FLT3/ITD陽性のヒト骨髄性白血病MV4-11にMDR1遺伝子を導入したMV4-11/MDR細胞のP-gp発現を、数十nMの濃度で低下させた。一方、ヒト慢性骨髄性白血病K562/MDR、ヒト大腸がんSW620-14のP-gp発現は、Pim-1阻害薬の濃度を1μMまで上げても変化しなかった。 [研究2]上皮間葉転換(EMT)におけるがん細胞の抗がん剤感受性の変化について検討した。既に樹立されていたSnail導入細胞に加えて、Slug、Twistの遺伝子導入細胞を樹立した。3種類の細胞の抗がん剤感受性を検討したところ、Slug導入細胞は、シスプラチン、SN-38、ビンクリスチン、メトトレキサート、シタラビンに耐性を示し、最も抗がん剤耐性化が顕著であった。 [研究3]ヒトABCB5遺伝子導入細胞293/B5は、親株のHEK293と比べてパクリタキセル、ドセタキセルに3倍程度の耐性を示す。両細胞における薬物輸送について検討した結果、293/B5ではパクリタキセル、ドセタキセルの細胞内取り込みが低下していることが明らかになった。今回新たにマウスabcb5の全長cDNAをクローニングして遺伝子導入細胞293/mb5を作製した。その結果、マウスsbcb5遺伝子導入細胞もドセタキセルに耐性を獲得した。また、293/B5細胞が、グルタチオン合成阻害薬であるbuthionine sulfoximine(BSO)に耐性を示すことを見出した。 [研究4]新規フラボノイドdimerのBCRP阻害作用について検討した。2種類のフラボノイドdimerは、野生型BCRP導入細胞PA/BCRPWT、C603S変異型BCRP導入細胞PA/BCRP-C603SのSN-38耐性を、強く阻害した。FACSでは、フラボノイドdimerは、モノマー型のBCRPを発現するPA/BCRP-C603Sの蛍光強度を増大させた。この作用はフラボノイドmonomerにはみられなかった。また野生型のBCRPを発現するPA/BCRPWTの蛍光強度には変化はなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、Pim-1阻害薬がMV4-11/MDR細胞のP-糖タンパク質の発現を低下させることを見出した。また、新規フラボノイドdimerとBCRPとの新たな相互作用を見出した。こうした当初計画にはなかった新しい薬の作用機序の研究が進展している。また、当初計画によるトランスポーターの生理機能の解析なども順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度も、当初の計画に従って本研究を進める。具体的には、Pim-1阻害薬のP-糖タンパク質(P-gp)の発現に対する影響について検討する。上皮間葉転換(EMT)におけるがん細胞の抗がん剤感受性の変化について検討する。ヒトABCB5遺伝子導入細胞293/B5、マウスabcb5導入細胞293/mb5は、グルタチオン合成阻害薬であるbuthionine sulfoximine(BSO)にも耐性を示す。このBSO耐性の機構を明らかにする。また、細胞におけるBSOの輸送を検討する。細胞抽出物を蛍光標識してHPLCで一斉分析することにより、ABCB5発現細胞で細胞内含量が低下している生体物質を同定する。新規フラボノイドdimerのBCRPとの相互作用について検討する。
|