P-糖タンパク質(P-gp)を発現するヒトがん細胞株HCT-15、SW620-14、HT1080/3HisMDRを用いて、P-gpの発現を変動させる低分子化合物を探索し、プロテアソーム阻害薬であるMG132、lactacystin、bortezomibがP-gpの発現を増大させることを見出した。次いでP-gpのユビキチン化に関連する酵素群を探索し、ユビキチンリガーゼ(E3)であるFBXO15とユビキチン結合酵素(E2)であるUBE2R1/CDC34がこの反応に関与することを見出した。FBXO15、UBE2R1のsiRNAの導入により、MG132存在下ではユビキチン化P-gpの減少が、MG132非存在下ではP-gpの発現の増大が観察された。FBXO15、UBE2R1の過剰発現により、ユビキチン化P-gpは増大した。また、FBXO15をノックダウンした細胞ではvincristineに対する抵抗性が増大した。以上より、P-gpの分解に関与するユビキチン-プロテアソーム系が明らかになった。 Pim-1阻害薬は、ヒト骨髄性白血病由来のMV4-11/MDRにおけるP-gpの発現、4E-BP1の発現とリン酸化、Mcl-1の発現を低下させた。FLT3阻害薬も、同様の効果を示した。PKAとPKCがPim-1をリン酸化することが、in vitro kinase assayにより明らかになった。一方、Akt、MEK、ERK、GSK3βは、Pim-1をリン酸化しなかった。PKC阻害薬は、MV4-11/MDRのP-gpの発現、4E-BP1の発現とリン酸化、Mcl-1の発現を低下させた。以上より、PKCによるPim-1のリン酸化がP-gpの発現制御に重要であると考えられた。 ヒトABCB5導入細胞293/B5、マウスabcb5導入細胞293/mb5は、グルタチオン(GSH)合成阻害薬であるbuthionine sulfoximine(BSO)に耐性を示した。これらの細胞におけるBSOの細胞内蓄積は親株HEK293と同等であり、BSO自体はABCB5の基質ではなかった。ABCB5導入細胞では、BSOによる細胞内GSHの低下効果が親株より弱かった。ABCB5導入細胞では細胞内のGSHレベルが上昇しており、これがBSO耐性の原因と考えられた。
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