研究課題/領域番号 |
23310003
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
北出 裕二郎 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (50281001)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 南極底層水 / 深層大循環 / 海氷生産 / 温暖化 / 海洋環境変動 / 高密度陸棚水 |
研究概要 |
本研究は、南極海表層水の低塩分化が底層水塊の変質に及ぼす影響を評価するための基礎研究で、研究対象海域であるビンセネス湾沖で継続して観測し、底層水形成の各プロセスを定量的に評価することにより、低塩分化インパクトの波及機構解明を試みるものである。 ビンセネス湾ポリニヤは海氷生産量が南極で9番目の中規模ポリニヤであるが、本課題の係留観測により、冬季(6月~10月)に南極底層水が生成されていることを突き止めた。この観測結果とオーストラリアの研究グループがバイオロギングで取得している水温・塩分記録を組み合わせたボックスモデルを開発し、当該海域での南極底層水の生成量を評価した(Geophysical Research Letter誌に発表)。ビンセネス湾海域は、これまでの底層水生成域に見られる広い大陸棚や陸棚上の大きな窪地は無く、海氷生産も中規模である。このような海域でも底層水が形成されるという発見は革新的で、今後、底層水の定量的評価の精度向上に貢献する。 練習研究船海鷹丸による南極海での観測は初年度から継続して実施しているが、2013年度は、主に次の3項目の観測を行った。(1) CTD観測は、2014年1月中旬から下旬に、南緯60°以南の東経110°周辺の海域で実施し、水温・塩分・溶存酸素の詳細な構造を捉えた。今年度の観測では多角的に南極底層水の形成プロセスを検討できるように、栄養塩類とCFCのサンプル採取も行った。また、これまでの航海では海氷に覆われて観測できなかった陸棚上での観測が実施でき、南極底層水の源となる高密度陸棚水を捉えることに成功した。(2)係留観測は、2013年1月に湾西部沖海脚東斜面に設置した2系の係留系を2014年1月に回収することに成功した。(3)正確な海表面塩分を計測するため、南極海観測のほぼ全測点でフロート型CTDによる海面塩分の観測を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の航海ではシップタイムの不足により、予定していた表層の乱流場観測が殆どできなかったが、その一方で、長期係留系を無事回収したこと、これまで海氷の張り出しにより観測できなかった陸棚上でのCTD観測に成功し、高密度陸棚水の存在を確認でき、係留観測記録をサポートする成果が得られたことから、観測に関しては、順調に進んでいると言える。特に、研究対象海域が南極底層水の新たな生成域の一つであることを、長期係留観測記録と継続して実施しているCTDによる水温・塩分場の観測の両面から説明できており、周辺海域で観測されているARGOフロートデータ・ゾウアザラシのバイオロギングデータ(オーストラリアの研究グループが取得)と合わせて解析することによって、南極底層水の生成量を推定するボックスモデルを考案し、高密度陸棚水の生成量を推算した点など良く評価できる。今回、回収した係留系の記録を解析することで、流量推定の精度が向上すること、さらに塩分フラックスに対する沿岸流や捕捉波など各物理プロセスの効果を定量的に把握することができると考えている。 海面塩分の観測に関しては、メモリ式塩分計を用いたフロート型CTDにより、広範囲における高精度の海面塩分データを取得でき、当初の目的を達成した。また、表層塩分の季節変動については、JAMSTECが開発した南大洋トライトンブイの下部に本研究課題のCT計を設置し、1年間にわたる表層塩分の変動実測データを得ることに成功している。各データの解析は順調に進められている。 一方、海鷹丸による観測時間の制限により、CTチェーンを用いた氷山まわりでの観測が十分取得できていないが、前半の2年間に得られたCTチェーンデータと乱流観測データの解析により、表層の各プロセスによる塩分フラックスの効果の概算値は評価できるようになると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ計画通りに進んでおり、観測記録を蓄積できていることから、特に大きな変更はなく、今年度も継続して観測を行う。これに加え、本課題の最終年度であることから、以下の項目に関する研究を進めると同時に総合評価を行う。 観測の実施:モニタリングという観点から南極海での観測を継続して実施する。海鷹丸による観測は、2015年1月中旬から下旬を予定している。この観測は、連携研究者の2名と大学院生学生1名が担当する予定である。南極底層水および陸棚水の水温・塩分について、経年的変化の動向を継続して捉える。 長期深層係留データの解析:2014年1月に回収した係留データから南極底層水の流量を推定すると同時に、スロープカレントによる底層水の輸送量とその時間変化、沿岸捕捉波による底層水塩分の拡散・分散効果の評価を行う。また、20日周期および数日周期の変動の存在が明らかとなっているが、この発生機構を解明する。 表層塩分の変動に関する解析:(a)海表面で観測した塩分分布2年分のデータと東経140°、南緯60°に設置・回収した南大洋ブイで得られた海面塩分データについて、時空間変動を明らかにし、その変動の機構を考察する。これにより塩分フラックスおよびその変動の規模が定量的に把握できると期待される。(b)表層中層で得た乱流データ・CTチェーンデータによる塩分フラックスの評価を試みる。それぞれのデータ解析について、大学院学生(2名)が担当する。 モデルの改良と各プロセスの定量評価:各物理プロセスに伴う塩分フラックスが評価できるようになった時点で、順次ボックスモデルの改良を施し、当該海域における底層水の生成量について精度を向上させる。このボックスモデルにより、海表面の低塩分化インパクトが、どの様なプロセスにより水塊変質へ寄与するのかを調べる。これらのデータ解析とボックスモデルの改良は、北出が担当する。
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