研究課題/領域番号 |
23310005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 彰 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50231098)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境分析 / 二酸化炭素排出削減 / 環境質定量化・予測 / 腐植物質 / 土壌学 / ブラックカーボン / バイオチャー |
研究概要 |
植物が炭素(C)を分解されにくい形態で土壌に施用して、土壌C貯留量を増大させることは、大気中の二酸化炭素を減らし、地球温暖化を減速させる方策のひとつである。環境中に普遍的に存在する炭化物はその有力な材料候補であるが、炭化物の土壌中における動態はまだよくわかっていない。本研究は、土壌圏における炭化物の挙動、滞留時間と構造との関係を調べ、土壌C蓄積への寄与を明らかにすることを目的としている。本年度は①土壌型と炭化物の量、存在形態、腐植物質の構造特性との関係、②炭化物の分解に対する光分解の寄与、③炭化物連用圃場における炭化物の集積について評価を行った。黒ボク土からは、重量ベースで3.4~15.8% の炭化物が分離されたが、他の土壌型では0~4%にとどまった。炭化物から抽出されたフミン酸のX線回折プロファイルは、不溶性の縮合環より小さく、土壌フミン酸と縮合芳香環の量および組成がきわめて類似していることを示した。フルボ酸のX線回折プロファイルには炭素網面の存在を示唆する十分な強さの11バンドはみられなかったが、FTICR-MS分析では土壌型に関係なく、フミン酸の最大六員環数11を下回る六員環数8までの縮合芳香環の存在が推定され、炭化物断片の腐植物質への普遍的な参加が示唆された。②では太陽光シミュレーター中での2ヶ月間連続照射により、生分解量と同レベルの光分解が認められたが、分解量が小さいため、構造上の有意な変化は検出されなかった。③では、竹炭20 t/ha(15 t C/ha)を5作期連用した愛知県大府市の畑2圃場(黄色土)における土壌C集積をまとめ、10~20 cm層土壌のC含量が経時的に増大する一方、無施用区との差に基づく炭化物C回収率はそれぞれ101±7%および103±6%であり、見かけ上分解することなく作土に蓄積したと結論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌中の炭化物量は土壌型によっては極めて小さく、構造解析に可能な量を得るのが困難な場合もあったが、その一方、炭化物中のフミン酸と土壌フミン酸の縮合芳香環組成が土壌毎に類似している等炭化物と土壌有機物のつながりを示すデータも得られている。炭化物の光分解量も小さく、構造変化を検出するに至らなかったため、今後は生分解との組み合わせによる炭化物の崩壊についても検討する必要があると考えられるが、それは申請時の目的を越えている。圃場における物理的な挙動に関しては、系外への有意な移行はなかったとの結論が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新たに土壌のHNO3処理で生成するベンゼンポリカルボン酸の定量に基づき炭化物に由来するブラックカーボン量を推定する手法を導入して、土壌型と炭化物含量との関係を確認する。また、火山灰土断面から深さ別に採取した土壌を用いて、残留炭化物の14C年代と、固体13C NMR分析、X線回折プロファイル11バンド解析に基づく構造特性との関係を解析する。構造特性に基づく炭化物の分解速度予測に関連して、材料および燃焼温度が炭化物の構造特性に及ぼす影響を、400~800oCでそれぞれ炭化した広葉樹(ニセアカシア)、針葉樹(アカマツ)、草本植物(竹、トウモロコシ)を用いて明らかにする。
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