研究課題/領域番号 |
23310020
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
相田 真希 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 技術主任 (90463091)
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研究分担者 |
喜多村 稔 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 技術研究主任 (00392952)
吉川 知里 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 特任研究員 (40435839)
小針 統 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (60336328)
SHERWOOD Smith 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 主任研究員 (80399568)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 海洋生態系 / 安定同位体比 / 食物連鎖 / 環境動態モデル / 物質循環 |
研究概要 |
近年、生態系の食物連鎖構造を知る手段として、安定同位体比(δ15N、δ13C)を用いた研究が広く使われてきている。代表者らが見出した、陸域、海域、水域など異なる生態系間でδ15N/δ13Cの傾きに共通性があるという新たな知見(Aita et al., 2011; Wada et al., 2013)に加え、「窒素・炭素の同位体効果は、一次生産者の代謝過程が上位のTLにまで影響を与える重要な役割を果たしている」という事実のもと、本研究課題では、観測・モデル・検証の統合による次世代海洋生態系モデル構築のためのブレークスルーを目指すこと目的としている。本研究では、生態系モデルを窒素・炭素安定同位体比の変動によって検証できる基盤技術や、それを用いた方法論の進展を意図した。このために、1.西部北太平洋域亜熱帯、亜寒帯域における食物連鎖と同位体効果の比較、2.海洋生態系-数値モデルをSI(Stable Isotope)法によって検証する方法を確立することを軸に、食物網と物質循環を含めた同位体海洋生態系モデルの構築と、上記統合に新しい視座(パラダイムシフト)を提起する。 平成24年度は、1.について、これまでに採集を行った亜寒帯循環域観測定点K2(表層~1,000m深)及び亜熱帯循環域観測定点S1(表層~150m深)の生物試料の窒素・炭素安定同位体比を実施した。S1については、K2と比べ生物種が多く存在すること、また亜熱帯域における生物の同位体分布について季節的な研究が過去になされていないことなどから、特に生物分類に重点を置いた作業を実施した。一方、2.の海洋生態系モデルについては、海洋で生成するN2Oの生成プロセスを定量的に調べるために、海洋低次生態系-N2Oアイソトポマーモデルの改良を実施した。感度実験の結果から、K2のN2Oは、ほぼ硝化によって生成していることなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度はK2(西部北太平洋亜寒帯域)生物試料の同位体比測定に加え、S1(西部北太平洋亜熱帯域)試料の分類と測定に着手した。K2と比較し、S1に生息する生物の体サイズは小さく、また生物種が多く存在したことから、特にS1の生物分類作業は慎重に行った。 K2については4季節、S1については春季・夏季の同位体比測定を終えたが、食物連鎖全体が持つδ15N/δ13Cに亜寒帯・亜熱帯域で地域差が無いことが統計的な解析から示唆された。この結果は生態系モデルの構造及びパラメータにおいて海域間の共通性を意味する。 モデル研究においてはN2Oアイソトポマーモデルの感度実験から、N2O生成はアンモニア酸化古細菌(AOB)単独で行われているのではなく、アンモニア酸化細菌(AOA)とAOBの両者により生成していること、特にAOAの寄与が高いことが定量的に示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、S1試料(秋季・冬季及び中深層採集試料)の分類と海水試料の安定同位体比測定を行う。 同位体比を絡めた生物の季節的な変化について、亜寒帯域に比べ亜熱帯域の報告例が少ないことから、本研究で得られた結果は、生物と物質循環の深化に期待できる。また、平成24年度成果である生態系モデル構造の海域間の共通性に基づいて、K2及びS1から得られた安定同位体比による生態学的な解析と知見を生態系モデルに加える。 窒素安定同位体比の測定結果の解析とモデルによるシミュレーション解析から、特に貧栄養海域における生物のための窒素の供給源の検証を行えるよう発展させる。
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