研究概要 |
初年度は以下の調査研究を行った。1)フィリピン東海岸を源流とし北上する黒潮の沿岸を,ルソン島の南部(アルバイ州),中央部(アウロラ州),北部(カガヤン州)および台湾へ続くバシー諸島(バタネス州)を中心に踏査し,嚢状緑藻の生態観察と標本採取,及び漁村社会の概況視察を実施した。次いで2)台湾の南部から東北部へかけ前述と同様の調査を,また3)高知県の沿岸調査を並行して進めた。調査時期がやや異なるが,比較的開発が遅れている地域の海洋環境では嚢状緑藻が潮間帯に多く観察され,そうでないところは激減する傾向を示す。このことから,嚢状緑藻は,国境を越えて沿岸諸国の海洋の劣化を測る環境指標種として有望視された。また,4)現地では本研究計画および嚢状緑藻に関する講演会およびセミナを開催し,関係者及び住民から沿岸環境情報を入手するとともに,5)今後さらに広く関連情報を収集するために嚢状緑藻数種の写真入り耐水性パンフレットを作成し配布する準備を整えた。 収集した生体試料は,それを材料として培養株を作成し,一部については現在その生理学的特性を分析中であるが,先行的に進めたバロニア種の岩上への着生メカニズムや細胞の光に対する成長応答について得た知見を国際学会誌に投稿し採択された。また沿岸環境を保護するためにフィリピンの全国に設置されている海洋保護区(MPA)の事例調査を行い,住民の藻場に対する意向を仮想市場法で計測・解析し,その結果を学会誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査の候補地以外にも数多くの調査地点を訪問したことにより,日本~台湾~フィリピンに亘る黒潮流域に沿って未調査地の少ない調査を行った一方で,調査に好適な特定の調査地を絞り込むまでには至らなかった。その他の社会科学的および生物学的アプローチは,様々な研究手法の工夫・開発の試みを含めおおむね計画通りに進められていると判断した。
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