研究課題/領域番号 |
23310024
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
峯 一朗 高知大学, 教育研究部総合科学系, 准教授 (00274358)
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研究分担者 |
諸岡 慶昇 高知大学, その他, 名誉教授 (20380305)
奥田 一雄 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (40152417)
関田 諭子 高知大学, 教育研究部総合科学系, 准教授 (70314979)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 藻場 |
研究概要 |
今年度は以下の調査研究を行った。1)フィリピン東海岸を源流とし北上する黒潮の沿岸を,ルソン島の南部(アルバイ州),北部(カガヤン州)を中心に踏査し,嚢状緑藻の生態観察と標本採取,及び漁村社会の概況視察を実施した。次いで2)台湾の南部,および黒潮流域中心に位置する緑島において同様の調査を,また3)高知県の西部沿岸調査を並行して進めた。特にカガヤン州では現地研究機関職員による嚢状緑藻の植生に関する毎月の定点調査を開始・継続している。また,今年度までに4)嚢状緑藻識別パンフレット(英語/タガログ語版,および日本語/中国語版)を現地で配布し,当研究への共通認識を醸成し,現地住民からの情報収集の仕組みを整備した。 これまでの社会調査および生態調査の結果から,同じ調査地域の中でも嚢状緑藻が繁茂する磯とそうではない磯が存在することが明らかになってきており,現地の社会状況調査結果や,培養株の生理学的特性,生物地理学的解析データと合わせて,嚢状緑藻の植生と沿岸環境,住民生活との因果関係を比較考察した。また,調査を通して経済価値の有無によって漁民の海藻識別に地域差があることから,市場性なども勘案した緑藻を選定提示し環境指標としての認知度を評価したい。 また,調査研究に伴う業績として,海洋資源の利用に関する論文および嚢状緑藻の生育に関す論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒潮沿岸に位置する日台比3国の要所を調査した初年度に引き続き,今年度は調査地域を絞り込み,現地協力者による月毎の定点調査を実施した。また、比較研究に有効な調査地点を特定し,嚢状緑藻の植生に与える自然・社会環境の影響を評価するための基盤情報を収集・蓄積した。さらに北部ルソンの調査地では、温帯・亜熱帯・熱帯の気候帯で、嚢状緑藻もバロニア、カサノリ、イワズタでその生育状態に季節性が認められるところから、そうした季節的な消長も織り込んだ社会調査票作成の要が示唆された。 また,各調査地域から採集された嚢状緑藻に由来する培養株がバロニアなどで確立されてきており,それらの成長や生殖に与える環境条件を実験室の培養実験により特定するための条件が整いつつある。また,調査地域にわたって採集された各種の分子系統学用試料の蓄積も進んでおり,日台比における嚢状緑藻の地理的分布の特徴を明らかにする解析が始められている。 調査結果については、経過報告を兼ね、日台比3国の連携機関による黒潮関連国際シンポジウムで報告し、学会報告及び学会誌などに投稿し成果の公表に努めた。また現地調査のおりは、調査法やサンプリングの方法、得られた知見について現地機関でセミナを持ち相互の理解を深めるよう配慮した。これらのことから,計画の取りまとめとなる最終年度に向けておおむね計画通りに進められたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査として,高知(宿毛沿岸,土佐湾沿岸),緑島(台東),クラベリア(カガヤン州),ラゴノイ湾(ビコール地方)の日台比3国における定点観察を継続し,環境指標としての嚢状緑藻(バロニア,イワズタ,カサノリ)の生育特性と,現地の評価現況を踏査し,それぞれの調査地で成果検討会を開催する。また,平成25年度が最終年度であるので,日台比3ケ国の関係機関による合同セミナーを開催し,環境指標種の研究成果の取りまとめ英文誌に投稿する。 社会学的アプローチとして,1)各調査地にける環境保全,特に沿岸域の海洋生態系の保護に関わる法制度や慣行について得た知見を整理し,3国間の藻場を中心とした環境施策の比較考察を行う。また、2)生態に関するモニター調査と並行して,地域住民や現地機関を対象に藻場や海藻を中心とした海洋生態系に対する意識調査を実施する。ここでは、ミルやウミブドウなどの食用となる嚢状緑藻の利用加工現況を視野に、身近な海藻としての嚢状緑藻の認知度を検討する。さらに、3)生態調査と連携して嚢状緑藻の生育に変化を引き起こす社会経済的要因を比較考察する。 生物科学的アプローチとして,嚢状緑藻の採集・調査を調査地において継続実施するとともに各調査地での水質・環境調査を実施し,採集標本について各種の分子系統解析を行い,生物地理学的視点から黒潮流域の各地域における嚢状緑藻の種の共通性,固有性を明らかにする。また,本研究計画で確立された培養株を用いて,環境条件(光条件,温度条件,培地成分など)と,藻体の成長・形態形成・生殖との関連を解析する。
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