研究課題
富栄養化海水の共通特性として窒素過多が知られている。サンゴ礁生物は、貧栄養環境および低窒素環境下に適応進化した生物群である。窒素過多の急性毒性は知られておらず、主な影響は慢性毒性である。しかし、窒素過多の慢性毒性誘発のメカニズムは不明のままである。最近、無機窒素体から活性酸素と良く似た性質をもつ「活性窒素」が細胞内で生産され、様々な生理機能を発揮していることが明らかとなってきた。また、活性酸素と同様に、活性窒素が細胞死の誘導や様々な代謝障害の原因ともなっていることも指摘されている。本年は窒素過多による慢性毒性評価法確立を目指して、活性窒素生成のフィンガープリントであるニトロ化物質の定量技術の基礎反応の解析を行った。ニトロフェノールをモデル化合物として、亜硝酸遊離を伴う脱ニトロ化反応の検討を行った。土壌細菌による分解系では、ニトロフェノールの消失と亜硝酸の生成が連動して起こる事が確認されたが、光学異性体を分解しないなど、汎用目的に不向きな基質特異性の高さが明らかとなった。そこで、非酵素的にニトロフェノールから亜硝酸を遊離する反応を検討した。その結果、促進的酸化的分解が有効であることが明らかとなった。この手法を用いて、生体構成分子のニトロ化レベルアッセイ技術を検討している(山崎担当)。富栄養化耐性能は生物種によって異なっている。サンゴ礁海域の富栄養化にともなって、第一次生産者の生物相が変化することが知られている。そこで、上記の技術開発基礎研究に加えて、野外の自然環境下での藻類相を調査し、富栄養化環境に特徴的に出現する生物種の特定を試みた。サンゴ礁としての健全性が確認された南西諸島海域でのラン藻相に関する現地調査とサンプリングをおこなった。現在、形態観察、メタゲノム手法および、エンリッチ培養法による顕在化を試みている(須田担当)。
2: おおむね順調に進展している
研究開始初年度として、野外現地調査と実験環境の研究立ち上げが完了し、研究の進捗状況及び達成状況は概ね予定通りである。
最終目標である慢性毒性評価にあたっては、当初の予想よりも生化学的基礎知見が希薄で脆弱であることが判明した。そのため、今後はモデル系を用いた実験システムの構築と生化学的基盤確立に力点を置く。また、サンゴを材料として統計的な生物実験を行う事は、希少生物保護の観点から困難なことから、代替生物試験材料を用いたアッセイ系の確立も併せて行う。
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Scientia Horticulturae
巻: 132 ページ: 71-79
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Acta Horticulture
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