造礁サンゴは、熱帯・亜熱帯の貧栄養環境に適応進化してきた生物群である。そのため、富栄養化によって無機窒素濃度が上昇すると、環境ストレスとして働き生体の機能障害を引き起こしてしまう。しかし、富栄養化による機能障害は急性反応を示すことは希で、多くは長期的な慢性ストレスとして作用する。急性反応に比べて慢性反応は、原因との因果関係特定が難しく、医学臨床分野でも課題となっている。また、生命科学全般において、長期ストレスの作用メカニズムも未だに明確にはなっていない。本研究課題では、富栄養化に伴う長期ストレスの評価法確立を目的として、ラジカル反応を用いた新規定量法の開発を試みた。特に、活性窒素による生体物質のニトロ化に着目し、実用化を視野に入れて簡便技術の開発をおこなった。その結果、ニトロ化物質をイオンクロマトグラフィー法によって定量化する手法が有効であることが明らかとなった。慢性ストレス障害の発生機序を明らかにするために、モデル生物としてAzollaを用いて検討をおこなった。その結果、酸素・窒素・硫黄の三つの活性分子種(ROS活性酸素、RNS活性窒素、RSS活性硫黄)の発生と制御が重要な働きをしていることが明らかとなった。研究結果を基に、様々なストレスによって同一の生理的応答が得られる新たな仕組みを仮説として提唱した。
|