研究課題
本研究は、温暖化が日本のシダ植物の種多様性へ与える影響を定量的に予測し、検出することを目的とする。将来気候の推定値は、全球気候モデル(GCM)によって異なるため、分布予測モデルを用いた温暖化影響評価には将来気候データ(気候シナリオ)に起因する不確実性が存在する。しかし、将来の気候データに起因する不確実性が生物分布予測結果に及ぼす影響については、国内外ともにほとんど検討されていない。本年は、World Climate Research Programの第3次結合モデル比較実験(CMIP3)で公開されている20個のGCMの気候データを利用して、将来気候データを整備し、SRES A1B排出シナリオにおける気候値の分散の評価を行った。SRES A1B排出シナリオに基づく20個のGCMの結果を利用して、将来気候データを以下の手順で作成した。まず、日平均気温と、日最低気温、日降水量より現在(1961~1981年)と将来(2081~2100年)の平年値(月平均気温、月平均最低気温、月降水量)を求めた。気温については将来と現在の差を、降水量はその比を求めた。その後、差比データを1km2 解像度まで空間補間(単純線形内挿)し、現在の3次メッシュ気候値(気象庁 1996)にオーバーレイした。以上の作業をすべてのGCMについて行い、20個の将来(2081~2100年)気候データを作成した。主成分分析を行った結果、SRES A1B排出シナリオにおける2081~2100 年の気候データは 20個のGCM 間で大きく異なることが明らかとなった。気温変数(WI、TMC)に比べて、降水変数(PRS、PRW)の方がGCM間のばらつきが大きかった。このことから、気温変数への依存性が高い種に比べて、降水変数への依存性が高い種は予測結果のばらつきが大きくなると推察される。
2: おおむね順調に進展している
影響予測では、分布予測モデルの精度を上げるとともに、予測の不確実性を評価することが重要であるが、これまでほとんど行われていなかった。本年は、予測の不確実性の大きな要因である気候シナリオの違いの影響を評価した。すなわち、20気候モデル(GCM)に基づく多気候シナリオを整理し、その違いを明らかにした。
シダ植物の解析対象種を増やして影響予測を行い、温暖化影響指標種の評価を目指す。また、過去の影響検出のためのモニタリングを進める。問題点としては、モニタリングのために現地調査が必要であるが、研究費の制限の中で実行できる範囲は限定されることである。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
天気
巻: 59(8) ページ: 681-686