研究課題
本研究は、温暖化が日本のシダ植物の種多様性へ与える影響を定量的に予測し、検出することを目的とする。将来の気候条件に基づく生育可能な場所(潜在生育域)と現在の分布を比較することによって、現在の分布がどのように変化するかを予想して現地調査を実施することにより温暖化影響の検出を目標とする。将来の正確な潜在生育域の予測のためには、現在の分布を高い精度で予測する分布予測モデルの構築が必要である。本年は、分布予測モデルの精度を向上させるために、土地的普通種3種と土地的依存種3種を対象として、気候変数のみを用いたモデル(気候変数モデル)と、非気候変数(地形と地質)を追加したモデル(気候-非気候変数モデル)を構築し、植物の分布予測の精度を比較した。その結果、気候-非気候変数モデルの方がすべての種でより高精度で分布域を予測できることが明らかとなった。とくに、土地的依存種の予測精度の向上が顕著であった。日本では過去100 年間に平均気温が1.06℃上昇した(気象庁2005)。近年の温暖化影響を検出するためには、温暖化に伴い潜在生育地が大きく移動する感受性の高い種と地域を選んで、現地調査を実施し分布の変化を検出することが必要である。本年は、筑波山のシダ植物の空間的時間的変化を把握するモニタリングシステムを構築するため、初回の植生調査を実施した。標高(850、800、750、650、550、450m)、地形(尾根と谷)、斜面方向の異なる62地点に永久植生調査区を設定した。調査の結果、谷系列にシダ植物が多く出現し、尾根系列ではスズタケが多いため草本植物は貧弱であることがわかった。低標高域に出現した暖温帯性のベニシダ、イノデなどは、気候変化に対して敏感に移動する可能性があり温暖化の指標種候補と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
分布予測モデルの精度向上について、説明変数の比較を通して一定の成果を得た。筑波山の現地調査と永久植生調査区を設定し、温暖化影響検出に役立つモニタリングの基盤を構築した。
モデルの精度向上が進んだので、今後、対象種を増やして温暖化のしだ植物分布への影響予測を進める。また、影響検出モニタリングは、一つの山地だけでなく広域の変化も検出するために、筑波山以外でも適切な山地を選んでモニタリング区を設定する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Landscape and Ecological Engineering
巻: 9 ページ: 111-120
10.1007/s11355-011-083-y
グリーンテクノ情報
巻: 9(3) ページ: 15-19