研究課題/領域番号 |
23310036
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
木南 凌 新潟大学, 医歯(薬)学総合研究科, 客員研究員 (40133615)
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研究分担者 |
小幡 美貴 新潟大学, 医学部, 教務職員 (00420307)
広瀬 哲史 新潟大学, 医歯学系, 助教 (10415276)
三嶋 行雄 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (30142029)
葛城 美徳 新潟大学, 医歯学系, 助教 (60401759)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 電離放射線 / 発がん / 幹細胞 / Bcl11b |
研究概要 |
1. Bcl11b+/KOマウスの腸管で形態や増殖性に変化はみられないが、3Gyのγ線を照射すると、細胞周期停止の減弱が観察される。この性質の変化がLgr5陽性細胞でBcl11b片アレル消失したことに起因するのかを調べた。その結果、4OHT投与(Creを発現誘導する)後のLgr5-Cre; Bcl11b-flox/+マウスでも同様の細胞周期停止の減弱が観察された。 2. Lgr5-Cre;Bcl11b-flox/KOマウスを作製し、4OHT投与により完全にBcl11bアレル消失した状態での腸管への影響を調べた。Cre発現をGFP染色で調べると、35%-45%のクリプト底部でCre発現が確認されたが、このクリプトの約半数でしかBcl11b発現の消失が観察されなかった。一方、Lgr5-Cre;LacZ-onマウスではGFP染色とLacZ染色が同程度であった。これは、Bcl11b発現を消失したクリプトが維持能低下を引き起こし、その結果Bcl11b(-)幹細胞は存続能が低下したと考えられる。 3. Lgr5-Cre;Bcl11b-flox/KOマウスに4OHT投与後12Gy照射し、96時間後のクリプト再生時での変化を観察した。Lgr5発現をモニターするGFP発現は1-3%と激減したが、Bcl11b(-)のクリプトは20-30%観察された。これは照射後の再生時では、Bcl11b消失幹細胞はクリプト形成に強く寄与することを示唆する。したがって、クリプト・ホメオスタシス(維持)の時期とは反対の影響を与えると考えられた。 4. Bcl11b-S826G/KOマウスの3週齢での腸管を観察した。Bcl11b-S826GはBcl11bの826番目のセリンがグリシンに置換した低形成アレルである。クリプトサイズは有意に小さく、クリプト低形成をもたらすと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. Bcl11b+/KOマウスは腸管腫瘍形成を促進するが、その機構を明らかにする一つのヒントが得られた。すなわち、Bcl11b+/KOマウスの腸管では、形態、増殖性に変化はみられないが、3Gyのγ線を照射すると、細胞周期停止の減弱が観察される。今回の結果は、Lgr5発現陽性細胞でのみBcl11b片アレル消失する、Lgr5-Cre; Bcl11b-flox/+マウスでも同様にこの減弱が観察された。このことは、Lgr5発現陽性細胞(腸管幹細胞の有力候補であり、発がんの母細胞と考えられている)で、Bcl11bが量的に半減することが、発がんに貢献することを示している。なお、Bcl11b+/KOマウスの胸腺細胞でも1Gyまたは3Gyのγ線を照射すると、細胞周期停止の減弱が観察され、胸腺細胞特異的にBcl11bの片アレル消失させる系(Lck-Cre; Bcl11b-flox/+)でも、減弱が観察されている。この項目の達成度は100%と判断している。 2. 次に、Bcl11bの片アレルではなく、両アレルが消失するLgr5-Cre;Bcl11b-flox/KOマウスを作製し、実験した。腸管腫瘍形成という点では両アレル欠損はみられず、Bcl11bの完全消失は腫瘍形成にはむしろ負に働くと考えられる。Bcl11b発現を消失したクリプトは維持能低下を引き起こし、Bcl11b(-)幹細胞は存続能が低下したという結果が得られた。この低下は腫瘍形成に負に働くという予想と一致している。実験回数がまだ少なく、達成度は50%程度である。また、このマウス系に照射を行う実験も行っているが、未完成なところが多い。しかし、Bcl11bが幹細胞でどのような機能を付与するかのヒントは得られている。達成度は20%程度である。
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今後の研究の推進方策 |
1. Bcl11bが幹細胞にどのような機能を付与しているのか、Bcl11b消失がLgr5発現陽性細胞への放射線照射影響にどのような役割を果たすのかを中心に検討を加える。すなわち、Lgr5-Cre;Bcl11b-flox/KOマウスを作製し、4OHT投与後の腸管影響を非照射、照射後に調べる。前年度の結果から、Bcl11b消失により幹細胞の存続能低下が示唆されたが、その機構を明らかにしたい。モノクローナルコンバージョン機構の異常や休眠期幹細胞(Bmi1、tert陽性)からの移行障害が考えられる。そこで、Bcl11b消失クリプトに対し、Bcl11b陽性クリプトが優位となることを明確にする。方法として、クリプト横断面を経時的(4OHT投与後1、2、3日)に観察する。同時に、Bmi1、tertのRNA発現をin situで調べる。 一方、照射後の再生時では、Bcl11b消失幹細胞が逆にクリプト形成により強く寄与することが示唆された。そこで、同様に4OHT投与後のクリプト横断面について照射後経時的(4、5、6日後)に観察する。 2. LRC (BrdU-retaining cells)も一つの幹細胞候補であるが、Lgr5発現陽性細胞との関連性は不明確である。また、両者へのBcl11bの役割の違いも不明である。そこで、Bcl11bをLgr5-Cre;flox/+またはLgr5-Cre;flox/S826Gとし、BrdUを取り込ませた後、LRCの動態について解析を行う。 3. Apc-min/+;Bcl11b-flox/+マウスでの発がん実験は交配に時間がかかるため、まだ実行の途中である。この完成を目指す。
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