G9aは、ヒストンH3リジン9ジメチル化酵素として同定されたことから、新たに確立したマイクロ照射法により、正常ヒト二倍体細胞核の一部に局所的にDNA二重鎖切断を誘導し、この領域に限局してヒストンH3リジン9ジメチル化が誘導されるかどうかを検討した。DNA二重鎖切断の生成は、抗リン酸化ヒストンH2AX抗体、抗リン酸化ATM抗体および抗53BP1抗体を用いた蛍光抗体法により確認した。一方、ヒストンH3リジン9ジメチル化は、抗ヒストンH3リジン9ジメチル化抗体を用いた免疫蛍光染色法により同時に検出した。その結果、DNA損傷シグナルとヒストンH3リジン9ジメチル化シグナルが共局在することを確認した。 ATM阻害剤により残存フォーカス形成を阻害すると、大半のDNA損傷応答因子のフォーカスが消失する中で、53BP1フォーカスは全く影響を受けずに残った。一方で、G9a阻害剤により残存53BP1フォーカス形成が損なわれることから、53BP1蛋白質にヒストンH3リジン9ジメチル化を認識する領域が存在すると予想される。そこで、53BP1蛋白質のTudor領域に相当.するペプチドに蛍光蛋白質であるmCherryを融合した合成ペプチドを利用し、Tudor領域を持つペプチドがDNA損傷部位に集積する過程を可視化する実験系を確立した。これにより、ヒストンH3リジン9ジメチル化が53BP1のTudor領域により認識されていることを証明することが可能になった。 G9aによるヒストンH3リジン9ジメチル化が、残存DNA損傷部位におけるフォーカス増大の維持に直接関与することを証明するために、G9aに対する誘導型shRNA発現ベクターを正常ヒト細胞に導入した。導入細胞を選択薬剤でクローン化した後に、shRNAの誘導剤であるドキソルビシンを添加して、G9aの発現を蛍光抗体法により確認したところ、導入細胞でのみ発現抑制が起こっている事を確認した。さらに、G9aのshRNAを誘導した細胞において、DNA損傷部位における53BP1の集積が減弱している事を明らかにした。
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