研究課題
本研究の目的は、幹細胞におけるランダム染色体分配と選択的染色体分配のバランスに、放射線被ばくがどのような影響を与えるのかを探り、選択的染色体分配の制御と発がんとの関係を明らかにすることである。そのために本研究では、神経幹細胞を含むニューロスフェア細胞を胎齢14.5日のマウス胎児脳から採取して用い、対照細胞としてマウス線維芽細胞を用いた。選択的染色体分配を検出するために、細胞を5-エチニル-2'デオキシウリジン(EdU)存在下で2回DNA合成を行わせ、その後の細胞質分裂をサイトカラシンBで阻害して2核細胞を形成させた。次に、2つの核のEdU取込量をEdUに蛍光物質を結合させ、蛍光量を定量化して比較した。選択的染色体分配を行う細胞では、2核の蛍光量に偏りが生じると期待される。そこで、画像解析ソフトを用いて2核の蛍光強度を定量化し、その比が6:4以上に偏っている場合に選択的染色体分配であると判定した。X線非照射の線維芽細胞では、選択的染色体分配を行う細胞はみられなかったのに対し、ニューロスフェア細胞では、その割合は1%であった。そこで、1Gy、2Gy、3GyのX線を照射した場合について調べると、選択的染色体分配を行う細胞の割合は、それぞれ、0.6%、0.37%、0.22%となり、線量依存的に低下した。一方、ニューロスフェア細胞集団に存在する幹細胞マーカーCD133陽性細胞の割合は、非照射、1Gy、2Gy、及び3Gy照射の条件下で、それぞれ、1.4%、0.98%、0.68%、0.23%となり、線量依存的に低下することが分かった。したがって、本研究でみられたニューロスフェア細胞におけるX線照射による選択的染色体分配細胞の存在割合の低下には、CD133陽性細胞の存在割合の低下が関与している可能性が示唆される。
3: やや遅れている
間期2核細胞を用いた選択的染色体分配の検出とこの実験系を用いた放射線被ばくの影響については順調に進み、おおむね当初の目標を達成した。すなわち、放射線被ばくにより、線量依存的に選択的染色体分配を行う細胞の割合が低下することが明らかになった。一方、この選択的染色体分配の制御機構におけるp53遺伝子の役割に関する解析は進まなかった。その理由は、p53(-/-)ニューロスフェア細胞への遺伝子導入効率が極端に低く、遺伝子導入細胞が得られなかったからである。したがって、区分は(3)とした。
今後、以下の項目について検討を進める。(1)間期2核細胞とは別に、分裂後期(anaphase)細胞を標的にして、染色体レベルでの選択的染色体分配の検出を試みる。(2)p53(-/-)細胞への野生型p53遺伝子の導入効率を上げる条件を検討し、遺伝子導入細胞を分離する。(3)前述の遺伝子導入細胞が得られたら、p53(-/-)細胞とp53(+/+)細胞で、選択的染色体分配を計測する。
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Radiation Research
巻: 175 ページ: 416-423
10.1667/RR2391.1
http://chokai.riast.osakafu-u.ac.jp/%7Ehousya6/home.html